荷物持ち髪を切る
「なんかザップ髪伸びすぎじゃ?」
マイが僕の方をまじまじ見ている。そうだな最近すこし髪の毛うざいなと思い始めた所だ。
「そう言えばザップが髪の毛切ったの見たこと無いけど、いつ切ってるの?」
「ん、そう言えば切って無いな。何でだろう?」
僕は記憶を辿る。最近と言うか、ここしばらく髪を切った記憶が無い。
1番最近髪が短くなったのは、収納にドラゴンブレスを入れようとして失敗してアンに燃やし尽くされた時だ。その前もアンに燃やされて、その前はリナに燃やされて、その前は迷宮で初めて会ったアンに燃やされた。そうか、ある程度伸びる度に僕の髪の毛はことごとく燃やされてたんだな……
「そっかー、じゃアンちゃん呼んでこよっか?」
「今の話を聞いてなんでそうなる?」
「え、だってザップは散髪の代わりに髪の毛燃やすって事でしょ?」
「何言ってやがる。事故だ事故」
けど、本当に果たして事故だったのだろうか?アンが楽しんで僕の髪の毛を燃やしていた感は否めない。
「ザップ、どこ行くの?」
「床屋だ床屋」
「いってらっしゃい」
僕は家を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「マイ、髪の毛切ってくれ」
「ん、床屋に行ったんじゃないの?」
「それが切れないんだ。どんなハサミでも俺の髪の毛は切れなかった」
「そんな訳ないでしょ」
ぷつり
マイが僕の髪の毛を一本抜く。
「なにこれ、固っ。全く千切れないわ」
そうなんだ。僕の髪の毛は曲がるけど、切れないし千切れない。なんでこんな事になってるんだ。
「けど、抜けたわよね。全部抜く?」
「坊主は勘弁してくれ」
「じゃ、燃やす?」
「だから、坊主からは離れようか。マイ、なんか鋭利な刃物で切ってくれないか?」
「いいけど、自分たちで髪の毛切ったらだいたい最後にはぱっつんのおかっぱが坊主になっちゃうのよね」
「どっちも勘弁してくれ」
僕たちは庭に出て散髪にトライする事にした。
「いきますっ!」
椅子に座った僕の前で、マイは死神の鎌を構えている。はたから見たら死刑執行にしか見えないのではないだろうか?
マイの持ってる武器で1番切れ味がいいのはこれだと言う。けど、鎌で細かいカットが出来るのだろうか?出来るのは横薙ぎくらいしかないのでは、ここで横薙ぎされたら切られるのは頭のてっぺんだけ。このままでは禿げたオッサンスタイルにされてしまうのでは?
「待て!待てマイっ!」
「大丈夫、信頼して!」
何の信頼だ?首は切らないと言うことか?それともしっかり頭頂部の毛は刈ると言うことか?
シュッ!
風を切る音がして頭の上を鎌が通り過ぎる。やられたか……
「ええーっ。これでも切れないの?これってドラゴンの鱗も切り裂くのに……」
僕は頭を撫でる。よかった。髪は無事だ。けど、ドラゴンの鱗より硬いのか僕の髪の毛……
「マイ、俺の髪は諦めよう」
「えー、ザップは髪が長くない方が似合ってるわ」
「とは言ってもな……」
抜くや燃やすは出来れば勘弁して欲しい。
「おい、お前達何してるんだ?」
『みみずくの横ばい亭』の裏口から魔王リナが出て来た。今日はビキニアーマーの上に可愛らしいエプロンをしている。それはそれで痴女感を助長している。
「お前こそ、魔王が何してるんだ」
リナ言うには、彼女は最近料理にはまっているらしい。自分の国の調理レベルを上げる為に自ら学びに来ているそうだ。まあ、実際の所は最近は平和だから戦闘しか能が無いと思われる彼女は暇なんだろう。
僕たちの状況もマイが説明する。
「それは当たり前だろう。ザップも仮にも魔王。魔王の髪の毛が普通のハサミで切れる訳なかろう。身体同様、髪や爪も強化されておる」
そうなのか。爪は迷宮で手にいれた魔法の爪切りで切ってたので気付かなかった。と言うことはあの爪切りはとんでもないものなのでは。
「え、じゃあお前は髪の毛どうしてんだよ」
「ナディアに切ってもらっておる。ナディアはなんでも出来るんだ」
ナディア、北の魔国の四天王の1人。人魚で狂った歌を歌う迷惑生物だ。けど、背に腹は代えられない。
「俺も切ってくれないか?」
「頼んでみる。待っておれ」
リナがスマホで会話して待つ事しばし。
「はーい。ヘアアーティストのナディアちゃんだよ!」
ふよふよ人魚が飛んで来た。いつも通り装備は貝ブラのみだ。ああ、不安でしかない。
「じゃーん、オリハルコンのハサミとすきバサミ!」
人魚は貝ブラに手を突っ込み2本のハサミを出す。下着に収納能力を付与するという魔国の伝統はなんとかして欲しいものだ。けど、オリハルコンって激レア素材じゃ?使い方間違ってないか?
人魚は地面にシートをひいて、あと僕にも髪の毛よけのシートを巻く。なんかプロっぽいな。
プロっぽいじゃなくてプロだった。10分もしないうちにカットは終わった。なんか前と後ろがすーすーする。
「はい、ザップ」
マイから受け取った手鏡で見る。うわ、なんて言うか前と後ろがごっそり刈り上げてある。
「ザップ、似合ってるわ」
マイがそう言うならいっか。
「ナディア、ありがとう。報酬は?」
「いらないわ。また髪の毛伸びたら呼んでね」
ん、おかしい。こいつが人の為に何かするとはあり得ない。
「おい、ナディア、俺の髪の毛捨てとくぞ」
何故か僕の髪の毛を集めたシートをナディアが手にしている。
「うちが責任もって捨てるわよ」
む、怪しい。
「も、もしかして素材になるのか?」
「あっちゃー、ばれちゃった。『魔王の毛』って超レア素材なのよ」
まじか、僕の毛がレア素材。なんか討伐対象の化け物になった気分だな。
「という事は、ナディア、わたしの髪の毛も売ってたのか?」
リナがナディアの肩を掴む。
ナディアを問いただすと、僕たちの髪の毛はそのままでもミスリルより固くいろんなものの強化に使え、錬金術でいろんなものと融合すると強化できる凄まじい素材だそうだ。
なんか気持ち悪いが、飲み薬とかじゃなくて良かった。お金になるなら売るのも悪くはない。僕の髪の毛はカットの度にナディアと折半する事で話がついた。
王都で売ったら僕の髪の毛は恐ろしい金額になり、旨いものをみんなで食べた。マイとアンが僕の髪の毛が伸びるのを心待ちにしているのは何か変な気分だ。
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