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 姫と筋肉、王都のギルドにて


「ジェーン、イザベル、ジェーン、イザベル」

  

 僕の目の前で浅黒い肌の巨漢が珠の様な汗をかきながら一心不乱に腕立て伏せをしている。なんか女性の名前を呪文の様に唱えている。正直、気持ち悪いを通り越して怖い。


 冒険者ギルドの奥の一角。王都最強のパーティー『地獄の愚者フール・オン・ザ・ヘル』のテーブルは空席に見えたが、近づくと床でトレーニングをするレリーフさんを見つけた。また仲間からはハブられてるのかな?


 一瞬、このまま帰ろうかと思ったけど、せっかく王都まで来たんだから勇気を出して声をかける事にした。


 僕の名前はラパン・グロー、いつもはウェイトレスをしてて、休みの日は冒険者をしてたりもする。最近お店のスタッフが増えたので、少しづつ冒険者の時間が増えている。お店には綺麗な人ばっかなので、もしかしたら人気を取られてるのかもと、すこし危機感も感じる今日この頃。

 ちなみに今日はお買い物のついでに、先日世話になった死霊術士ネクロマンサーのレリーフさんに謝礼を払いに来た所だ。


「レリーフさん!」


「まて、今は大事な所だ。ジェーン、イザベル、ジェーン、イザベル、ジェーン、イザベル、ジェーン、イザベル、ジェーン、イザベル、ジェーン、イザベル、グッホワァーッ!」


 レリーフさんは腕立て伏せを加速すると、その場に崩れ落ちる。そしてゴロンと転がると、ビンを何処からか出してそれを口に含む。


「クッハーッ!沁みるー!やはり昼はミドルポーションに限るな!いくぞ、ジェーン、イザベル!」


「レリーフさん、話を聞いて下さい!」


「ハァハァ、なんだ、ラパンちゃんか、私に何か用かな?」


 レリーフさんは荒い息をつき寝転びながら答える。


「この前の殺人事件、犯人捕まったので、その謝礼をもってきました」


「いや、私は大した事してないからそれは辞退するよ」


「いえ、逆に僕の方こそ大した事してないんですけど」


「それでは、こういう事にしよう。私に払おうとしていたお金は、ラパンちゃんがもっと素晴らしい筋肉をつけるために使ってくれ。そしたら、ケイトもスザンナも喜ぶと思う」


 レリーフさんは、寝っ転がったまま左右の大胸筋をぷるぷる動かす。やばい、スライムが威嚇してるみたいだ。独立した生き物みたいだ。ん、さっきはジェーン、イザベルって言ってなかったか?そっか、レリーフさんは僕をからかってるんだ。筋肉に名前をつけてる体でいい加減な名前を言ってるだけなんだろう。彼なりのシュール系のギャグなんだろう。さすがに筋肉に名前をつけて愛でる人なんか居るわけないよね。


「あれっ、さっき筋肉の名前はジェーンさんイザベルさんって言ってなかったですか?」


「ああ、そうだ。まだ紹介が終わって無かったな」


 レリーフさんは立ち上がる。でけぇ、熊みたいだ。そして両腕を曲げて力こぶを見せる。何なんだ?


「ジェーンは右の上腕二頭筋、イザベルは左の上腕二頭筋だ。よーし、ジェーン、イザベル挨拶しろ」


 レリーフの力こぶがモコモコ動く。上下に弾んで居るように見え、それはまるで僕との出会いを喜んでいるみたいだ。いかん、つい見つめてしまった。すこしづつ筋肉に抵抗が無くなってるのが嫌だ。


「よーし、ケイトもスザンナもだ」


 次は大胸筋も波打ち始める。正直心の底から気持ち悪いが、よく考えるとその4カ所の筋肉を独立させて動かせるのって凄い事なのでは?絶対トライしたくは無いけど。

 気が付くと、周りからの視線を感じる。これはギルドの冒険者たちも見た事が無い芸だったのだろう。


 とりあえず、レリーフさんを座らせる。それから延々と筋肉について聞かされた。ちなみに謝礼は受け取って貰えず、そのお金で僕は豆を買って毎日トレーニングの後に食べる事になった。正直勘弁して欲しい。僕はマッスルになる気は微塵も無い。2度とレリーフさんには筋肉について話かけ無いようにしようと心に誓った。


 

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