2代目荷物持ちの冒険 姫と筋肉
「これが兄が生前身に着けていたペンダントです」
僕は依頼人の女性からそれを受け取り、雑貨屋を後にした。
僕の名前はラパン・グロー。いつもはレストランでウェイトレス、休日は冒険者の二足のわらじを履いている。実は東の都市国家群の内の1つ、魔道都市アウフのお姫様だけど公然の秘密だ。
今回受けた依頼は雑貨屋の男性が刺殺されたという事件の犯人捜しの依頼だ。官憲では犯人が見つからず、その妹さんが冒険者ギルドに依頼したものだ。普通だったら藪の中でお蔵入りの事件だけど、僕は簡単に解決する方法を知っている。何故なら知り合いに死霊術士がいるからだ。
『死霊術士』
生死の神秘を追い求め、死霊と意思を交わし使役する事も出来るという。魔法の中でも外法。古に猛威を振るったその術も、その力と特異性故に迫害され、今では文献の中にその残滓を見るのみだ。
かの術者は故人の遺品から、故人と意思を通わせ、常人の知り得ぬ情報を得る事が出来ると昔読んだ本に書いてあった。
僕の知り合いの自称死霊術士は、王都で高名な冒険者パーティーの一員なので、僕は知り合いの魔王リナちゃんの設置した王都のそばに行けるワープポータルを使って王都に向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ハッハッハッハッハッハッハッハッ!」
「あのう、レリーフさん……」
「今、大事な所だ。あとにしてくれ。ケイト、スザンナ、ケイト、スザンナ!」
王都の冒険者ギルドにつくと、目当てのパーティー『地獄の愚者』のメンバーの指定席である入って右奥のテーブルに向かう。そこには誰も居なく、未練がましくそのテーブルに近付いたらソレは居た。
浅黒い皮膚に尖った耳、食人鬼と言われても納得してしまう張り裂けんばかりの筋肉に覆われた体。目的の人物がテーブルの隣の床で床に汗をしたたらせながら必死に腕立て伏せをしている。しかもソレに対して誰も視線を移しさえもしない。と言うことは、これはここでは日常の事なのだろう。
「ケイト、スザンナ、ケイト、スザンナ、ハッ、フシュー……」
レリーフさんは痙攣しながら腕立て伏せを止めるとその場に転がって天を向き、どっからか出した小瓶を口にする。ヒールポーションだ。この人、限界まで鍛えてその疲労を薬で回復させるを繰り返してるのか?
「沁みるっ! 朝はミドルポーションに限るな。では、ケイト、スザンナ、第2ラウンド行くか!」
「待って下さい、レリーフさん!」
「ん、なんだ、ラパンちゃんか。いつからそこに居たんだ?」
こいつっ、筋トレに夢中で僕の事が目に入ってなかったのか?
「もうっ、結構前からここに居ましたよ。ちょっとお願いがあってですね」
「お願い? 私に? しょうが無いな。話だけでも聞こうか」
レリーフはそう言うとタオルで汗を拭いながらテーブルについた。しょうがないとか言ってる割にはなんか嬉しそうだ。けど、本当の所は僕は帰ってジュースでも飲んで寝たい。公衆の面前で腕立て伏せに熱中する彼の頭の中は大丈夫なのだろうか?
僕は少し怯みながら椅子に座る。ここはこのギルドの最強冒険者のテーブルだ。僕が座っただけで、辺りの全ての冒険者が注目してるのを感じる。緊張する。何か話さないと。
「レリーフさん、今日はお一人なのですか?」
「そうだ。今日は休日だ。他のみんなは何かしてる。けど、何故か私はいつも休日は1人なんだよな。嫌われてる訳ではないと思うが。宿の浮遊霊にも確認とったしな」
浮遊霊でストーキングするなや!
突っ込みそうになるが、年上なので自重する。それに多分この人は何処でも筋トレを始めるのだろう。それ故、多分オフの日はハブられてるのだろう。常人の神経では同行は無理だ。
「そ、そうなのですね」
僕は微笑みで濁す。
「そう言えば、こうやって話すのは初めてだな。私の名前はレリーフ。そして右大胸筋のケイトと、左大胸筋のスザンナだ。挨拶しろ」
右大胸筋がぷるぷる、左大胸筋がぷるぷる僕に挨拶する。まるでスライムみたいだ。気圧されてつい双方に頭を下げる。いかん、いかん、ついつい生まれて初めて筋肉とコミュニケーションとってしまった……
「おい! 筋肉に名前つけるなや!」
我慢出来ず、口から漏れてしまう。
「ただの筋肉ではない。私の恋人だよ。人間は裏切るが、筋肉は裏切らない。構ってやれば構ってやるほど、愛情をかければかけるほど成長していく。いいぞ、筋肉はいいぞ。ラパンちゃんも早く私のいるここまで来るんだな」
レリーフは左右大胸筋を波打たせる。2匹のスライムが跳ねてるみたいだ。やばい、こいつはこんな奴だったのか。いつもは、ザップ達の前では猫被って大人しくしていたのだろう。
いかん、本気で気持ち悪くなってきた。女の子として、そこは決して行ってはいけない領域だと思う。
「それはそうとお願いがあるのですけど……」
僕はペンダントを出し、依頼の一部始終を話す。
「そうか、お安い御用だ。けど、一応対価を頂きたいと思う。君も持ってるよねエリクサー。私のトレーニングの後に少し貰えないか?」
「まあ、いいですけど……」
「そうか、決まりだな」
レリーフはペンダントを受け取ると、目を閉じ聞いた事の無い呪文を唱え始める。良かった。これでこの人が死霊術士じゃなかったら最悪だよ。
「そうか、そうだったのか……」
レリーフが虚空に向かって会話する。大丈夫か? なんか新たな変なものを受信してないよな?
「犯人は、この男の彼女の兄だ。終了。ではトレーニング開始だ!」
う、呆気ない。本当なのか?
それからみっちり3時間程レリーフは筋トレをし続け、僕はずっと晒し者だった。帰って確認すると、果たして犯人はレリーフの言った通りだった。けど、正直僕は2度とこの人とは関わりたくない。死霊術士とは伝承の通り人々を恐怖のどん底に引き落とす存在だった。死霊術士恐るべし……
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