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 ドラゴンドライブ


「いい天気だな」


 僕は風を体に浴びながら呟く。暑くも寒くもない。厳密には少し暑いのかも知れないが、風のおかげでちょうどいい。

 毎年思うけど、秋は短い。暑かったと思ったら急に涼しくなってすぐに寒くなる。個人的には寒いより暑い方がまだましだ。

 昔、薬草を集めていた時は山の中に入る事が多く、そこでは冬になると日中でも氷点下でどんな事をしても寒かったのを思い出す。山の奥深くに入らないようにしながら、数少ない大地に貼り付くように生えている薬草を集める。当然冬の稼ぎは少なくひもじい思いをしていた。冬より夏が好きなのは、多分冬にはいい思い出が少ないからだろう。


「ザップ、何処まで行くの?」


 マイが風に髪を靡かせている。マイには今日の目的地を教えてはいない。ピクニックに行くとしか言ってない。僕達はドラゴンのアンの背に乗ってかなり遠くまでやって来た。けど今回はかなり乗り心地がいい。魔道都市アウフで作られたどんな所にも魔法でひっつく座椅子を借りてきてアンの背中にひっつけてるからだ。フカフカで座り心地がいい。


「まあ、そこまで大した事無いと思うが、ついてからのお楽しみだ」


「何処に行ったとしても、こんないい天気の中でのピクニックは最高ね」


「そうだな」


 僕達は流れる景色を眺める。今日は結構遠出するので、アンはかなりの速度で走っている。たまにはドラゴンに戻して運動させないとアンはストレスが溜まるみたいだからな。


『まだ、つかないのですかぁああっ……』


 後ろから風にのって弱々しい声がする。


 今回僕達に座椅子を貸してくれた導師ジブルだ。彼女は体を椅子に固定して足のついた小さな蛇を抱いて力無く座っている。ジブルはスケルトン化していて、もうただの死骸にしか見えない。最初はいつもの幼女スタイルだったのだが、ドラゴン酔いでもどしそうになったらしくスケルトン化で難を逃れた。けど、スケルトンでも乗り物酔いはするみたいだ。しばらく前から変なペットを常備しているが、薄々ロクなものでは無いとみんな気付いているから突っ込ま無い。


「ジブル、もう少しだ。頑張れ!」


「あっ、珍しくザップがジブルに優しい」


「さすがに、ここで虐めたら、文字通り『死屍に鞭打つ』みたいじゃないか。俺はそこまで鬼畜じゃない」


『何言ってるんですかぁ、私は死体じゃないですよぉ……』


 そんなこんなでワイワイしながら目的地に到着した。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「何ていうか、落ち着きませんね」


 少女になったアンがキョロキョロする。


「確かに凄い景色だけど、なんだかねー」


 マイは優しいから濁してくれてはいるが、これは外れだな。


「マイさん、ズバッと言っていいですよ。悪趣味って」


 幼女に戻ったジブルが僕を指差す。


 僕達が来た所は『ストーンフォレスト』という、王国の国境近くにある観光スポットだ。最近読んだ本にあったのでその挿絵を見て面白そうだからやって来た。

 岩の大地から天に向かって鍾乳石みたいに岩が伸びている。それが幾つも集まって文字通り『岩の森』みたいだ。辺りには植物も生えて無く、動物の鳴き声もしない。それに節くれだった岩は近くで見ると何となく巨大な魔物に見えなくも無い。要はイメージ的に地獄っぽい。

 少し開けた所にシートを引いて、そこでマイの作った美味しいサンドイッチを食べてる訳だけど、なんか魔物に囲まれているみたいで落ち着かない。


「よし、飯食ったら帰るか……」


 場所選びは微妙だったけど、楽しいドライブだったと思う。もっと綺麗な所を探そう。

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