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 アルゼンチンバックブリーカー


「それでは、いまから組み手を行います。2人一組で交互に攻守に分かれて行って下さい」


 道着を着たエルフのデルはそう言うと木にかけてあったタオルで汗を拭く。


 今日はデル先生の格闘技講座。メンバーはいつメン、僕、マイ、アン、黒エルフレリーフ、子供族ホップのパムだ。

 デル号令の下、まずは準備体操。そして入念なストレッチ、基本動作の突き蹴りの反復のあと組み手になった。いつもはここから新技のレクチャーなのだが?


 マイとアン、レリーフとパムが組になって組み手を始める。ということは、僕はデルか……

 全力で戦ったら身体能力故に僕が圧勝するだろう。けど、ここでは技術を上げるのが目標。超剛力と超加速は封印してデルに合わせて組み手を行う。


「デル先生、今日は新技無しですか?」


 一応ここでは師なので敬う。


「そうですね、組み手してたら何か思い出すかなって思って。一通り教えたと思うから」


 デルはそう言うと左足を引き構える。重心は前足、開いた左手を上右手を下のデル得意な『水の構え』だ。防御主体でどんな攻撃も柔軟に受け流し、投げ、極めに持って行ける。

 デルは僕とマイ以外を相手する時には構えない。だいたい肘を腰につけた『無形の位』か、前重心で少し猫背で両腕をだらりと下げた『剣聖の位』のどっちかだ。構えの上のくらいと呼ばれるそれらは相手との実力差が無いとワンアクション遅れを取る事がある。それを鑑みての構えだ。要は僕を警戒しているという事だ。


「それでは、行くぞっ!」


 デルは防御主体の構えを取った。警戒態勢すべきはカウンター。けど、そんな事は関係ない。真っ向から押し切るのみ。即座に前に出て左手のジャブ。これはデルがギリギリ間合いから出る事でかわす。けど、狙いはこの少しスゥエーして詰まった瞬間。デルの頭を掴むべく開いた右手を超加速で繰り出す。さらに踏み込んで間合いを伸ばす。あ、全力でいってもうたわ。さっき手加減しようと思ってたのに、舌の根の乾かぬうちに。


「シャアッ!」


 デルの目が光ったかのように見えた。デルは僕から見て右に入り込みながら右手で僕の右手を払いながら手を引っ掛け、しかも同時に僕の前足を払う。化け物かこいつは?いかん、これは裏背負い投げの形だ。腕の逆関節を極めながら投げるというえげつない形だ。しかも前から地面に落ちるのでそのあとデルに背中を晒し後頭部を踏まれる未来が見える。


 跳ぶか?こらえるか?


 堪える!


 僕は投げられる瞬間に、足を後ろに反らし両足をデルのどっかにひっかけた。右手の肘に激痛が走るが、勢いを殺す事が出来た。体を捻りデルに絡みついて寝技に持ち込む。寝技は力の世界。僕が有利だ。


「えっ?」


 つい声が出る。デルの手が僕の首に回されて、股間に手が差し込まれる。デルが力強くその場に踏み止まる。


「アルゼンチンバックブリーカー!」


 目の端に捉えたマイが憧憬の眼差しでこっちを見てる。そんな顔するんじゃないよ。女の子が憧れちゃダメだ。


「はぁ……すごい、美しい……」


 レリーフの溜息も聞こえる。まあ、筋肉信者の彼はもっともだと思う。華奢なエルフのデルが僕を担いでいる様はシュールではあるが壮観だと思う。


『アルゼンチンバックブリーカー』


 どっかから伝わった格闘ショーとかで披露される技で、相手を背中から担いで首と足を取って背骨を攻めるという離れ業だ。正直ほぼ実戦でこれを繰り出す変態がいるとは……  


 ギシギシッ!


 背骨が悲鳴を上げる。これはイカン。僕は身をよじり逃げようとする。


「ハウッ!」


 つい変な声が漏れる。あろうことか、デルは僕の股間の大事な所と喉に指を食い込ませる。忘れてたこいつはこういう奴だ。闘いに関しては全く気を抜かない鬼畜だ。


「これしきでザップさんを倒せると思ってはいないです。ギブアップとかする訳ないですし」


 デル、過大評価しすぎだろ!喜んで今すぐにもギブアップしたい。けど、喉に食い込んだ指が声を出させてくれない。


「ハアアアアーツ!」


 デルは跳び上がり、後ろに倒れながら両手に力を入れる。痛ぇ!


 ドゴムッ!  


 大きな音を立て僕は大地に叩きつけられる。その上から多分倒立したデルが頭で僕の背骨を攻め、両手で思いっきり首と足を引いたと思われる。一瞬にして、喉、背骨を破壊された。なんとか大事な所は破壊を免れた。あと少しで男を止める所だった。デルの温情だろう。けどやり過ぎだろう。ポータルから出したエリクサーで即座に回復する。今後はデル相手に一切手加減はしない事にした。

 けど、今日の収穫は大きい。肩車のような感じで相手の攻撃をいなしつつ、後ろに入り込む事でアルゼンチンバックブリーカーに持って行ける事を学んだ。これは格好いい、漢のロマンだ。今後は僕の必殺技として活用していこうと思う。


「ザップさん、大丈夫ですか?」


 デルが倒れている僕の顔を覗き込む。


「大丈夫な事あろかい!さぁ、それでは、組み手を再開しようか」


 僕は落ち着いて声を紡ぎ出す。デルは女の子としてみなさない。こいつは猛獣だ。全力で叩き潰す!




「ハウッ!ごめんなさい、ギブアップです!」


 しばらくして、また、アルゼンチンバックブリーカーされてる僕がいた。怒りに任せて単調な攻撃を繰り返したのが原因だ。けど、言い訳をさせて貰えるなら、やっぱりどうしても美少女相手に本気にはなれない。

 しばらくマイ達の前で晒し者にされた後、デルは技を解いてくれた。くやしー!



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