脳筋大運動会 17
「では、そろそろ馴れ合いは終わりですね……」
トカゲ顔の導師ジブルは冷たい声でそう言い僕に振り返る。
ヒドラは高速で駆けて、もう騎士団は見えない。代わりに王都の城壁が目に入る。
ヒドラの首の1つになったジブルはその体をうねらせる。
「キャッ!」
即座にエルフのデルが落馬ならぬ落蛇する。そして転がりながら後ろに消える。
「ほう、使い魔のくせにご主人様に逆らえると思ったのか?」
僕はジブルの性格からして、いつかはそうすると思っていたので、蛇の体を這い上がり、ジブルの体にしがみつく。
「きゃっ、ははひっ、ザップそこはやめてーっ」
ジブルの腰を抱き締め回した手で脇をくすぐる。鱗に覆われて防御力は上がってそうだが、これには耐えられないようで、ジブルは身をよじる。
「この子は、ジブルの言うことは聞かないみたいね」
見ると、マイのしがみついている蛇頭は大人しくマイを乗せたままだ。けど、決して懐いている訳では無いと思う。マイのしがみついている蛇の体が異様に凹んでいる。マイが馬鹿力で締め付けてるんだ。マイの蛇頭は力に屈しているだけだろう。
「マイさん、ザップがめっちゃ私を抱き締めてますぅ。なんか変な所触ってますぅ」
ジブルが助けを求めるようにマイを見ながら気持ち悪い猫なで声を出す。
「なんですってー!」
ぱこーん!
蛇頭から飛び出したマイが僕の頭を引っぱたく。
「げっ!」
一瞬気を失いかけて、ジブルの体を離してしまう。
「マイ、単純過ぎるだろー!」
「ええーっ、だってーっ!」
僕達2人も仲良く落蛇して、勢いよく慣性で地面を転がった。
「さすがジブル、やるわね!」
「けど、勝つのは俺達だ!」
僕らはすぐに受け身を取り立ち上がり駆け出した。遙か前方にはジブルヒドラ、若干後ろにはエルフのデルも見える。もうデルは僕たちに追いつけないだろう。僕とマイは収納スキルを利用したストップストリーム荷物持ち走りで、人外のスピードを生み出している。
徐々にジブルに近付いていく。王都の城壁まであと少し。王都の中央広場がゴールだ。
長い戦いももうすぐ終わる。思い出すだけで、モヤモヤした気持ちになる。しょうも無い事しかなかった。正直、僕は今、何のために走っているのだろう。
「ザップ、あと少しね」
「ああ、不毛なレースだった。スキンヘッドくらい不毛だったな……」
「ザップ、疲れてるのね。いつもだけど、今日は一層面白くないわ。ザップだからしょうが無いけどね」
いつも面白くないはひどい。一瞬、不毛についてもっとピーキーな言葉を吐こうかと思ったけど、マイには下品絶対禁止なのでその言葉を呑み込んだ。
僕達は王都に近づく。思った通りジブルは城門で足止めされている。
「だから、私は魔道都市の導師なんですって、ほら、身分証もあるでしょ」
「確かに、本物だな。けど、駄目なものは駄目だ。森に帰れ」
ジブルが衛兵さんに止められている。当然だ。こんなでっかい魔物が王都に入れる訳がない。ヒドラ君達は城門をガリガリしてる。それにしても、ヒドラに全くひるんでない衛兵さん、あっぱれ!
「あっ、ザップ、あなたからも説得お願いします。私、あなたの使い魔ですよね?」
「知らんな。魔物は森に帰るんだな」
「ザップー、気持ち悪い蛇人間がこっち見てるわ。怖い怖い」
「マイさん、ひどいです、置いてかないで下さいー」
そして僕らはジブルの声を背に、レース参加者用の通用門を走って通過した。