脳筋大運動会 16
前方に見える無数の騎士は、手にしたランスで森から出て来たと思われる魔物に次々と突撃している。
装備から多分王国の騎士だと思われる。磨かれた鎧や武器がキラキラと陽光を照り返している。騎士達は5人一組で動いていて、一組が突出して魔物を狩ったと思ったら、その組はまた元の位置に戻り隊列は乱れない。まるで、綺麗に並んだ魚の群れがこっちに向かっているみたいで圧巻だ。
「ザップ、なにこれ、なんで騎士が?」
マイがこっちを向いて声を張る。マイは完全にヒドラの蛇頭を乗りこなしている。それに比べエルフのデルは振り落とされないようになんとかしがみついている。正直乗り心地は最悪だ。蛇の体はツルツルしていて掴み所がないので、無理矢理抱きついて、ずり下がったら登るを繰り返している。
「もしかして、俺を討伐に来たのか?」
「それにしては、こっちに向かって来る人は居ないですね」
ジブルが振り返る。相変わらずヒドラは突っ走っている。全くスピードは落ちない。このまま行くと、しばらくすれば騎士達とエンゲージしそうだ。
進む僕達の前から、騎士の隊列が綺麗に割れて行く。良かった敵認定されては居ないみたいだ。
「ザップさーん!」
その割れた魚群みたいな中から、煌びやかな鎧をまとった騎士が単騎駆けてくる。
聞いた事のあるような声だけど、兜で顔は解らない。
「ジブル、頭を下げろ」
「はーい!」
ジブルが素直に体を下げ、騎士は僕達に並走してくる。距離はあるが、大声でなら会話は出来そうだ。他の蛇頭は騎士に目もくれない。頭の中は牛でいっぱいなのか?別に馬でもいいような気もするが。
「ザップさーん、私はかつてお世話になった王国の騎士です。そのヒドラ、テイムしてるんですか?」
「そうだ、こいつは俺の使い魔だ」
決してテイムしてる訳ではなく、ただ暴走してるだけだけど、説明が面倒くさい。
「何言ってるんですか、ザップさん。けど、あなたが望むなら、使い魔になってもいっかなー」
「はいはい、望むから。という事でお前使い魔な」
「えー、なんか軽ーい……」
なんかジブルが言ってるがとりあえず放置だ。
「それで、騎士が何してるんだ?」
「はい、レースで追い出された魔物を狩ってます。冬が近づくと森から溢れてくるから、追い立てて貰ったんです。森の中での戦闘は危険ですから」
ん、という事は、このレースは森の魔物を脅かして追い立てて狩るのが目的?森で見た魔物はヒドラ君だけだったけど、リナや僕とかが殺気丸出しで走ってたら、そりゃ王都のそばの森に住むくらいの弱い奴は逃げるわな。
考えたのはポルト王か?牛一頭で森の掃除が出来れば安いもんだな。
「そうか、お前も頑張れよ」
「はい、レース頑張って下さい!」
最後まで誰か解らなかった騎士は僕達から離脱していった。