脳筋大運動会 15
「せえいっ!」
デルの拳をかわし、さらにミカからも距離を取る。挟まれたら厄介だ。
「フリーズアロー!」
ルルから投げられた大きな氷柱をかわす。これはいかん。思いのほか3人とも強くなっている。昔ゴブリン相手にわきゃわきゃしていたのが嘘のようだ。正直、報酬が牛一頭では割に合わん。
「ストープ、ストップ。止めだ、止めだ。もういい、俺はリタイアするからな。お前らとは戦わない」
僕はその場に座り込む。
「えー、白黒はっきりつけましょうよ」
いつも表情が変わらないデルが明らかに残念そうな顔をしている。なんで、こいつらそんなに戦いたがるんだ?
「ザップー、うしー!」
マイが不満の声を上げる。
「じゃ、マイが頑張れよ。俺は陰から応援しとく」
「それなら、マイ姉様、正々堂々競争しましょう」
ミカが拳を握ってふるふるしてる。そうなんだ、こいつらマイとは戦わないんだよな。何故だか。
ドドドドドドッ!
ん、なんか遠くから音が?
「大っきい。巨大な魔物がこっちに向かってます!」
デルはそう言うと、僕の後ろ足の方を見る。振り返ると木々を押し倒しながらいっぱい首のついた蛇っぽものが近付いて来る。
「だーれか、止めてくださいー!」
ドドドドドドッ!
「危なっ!」
迫りくる巨体をなんとかかわす。あ、さっきのヒドラだ。ジブルもついてる。なんか暴走してるようだけど、あれに乗ってったら簡単に森ぬけられるんじゃ?
僕は尻尾フリフリ走って行くヒドラをおっかけ、背中に飛びつく。這い上がってジブルがついた首を登って摑まる。ヒドラ、意外に走るのはえーな。
「おい、ジブル、どうしたんだ?」
「あ、ザップ、なんとか意思の疎通は出来るようになったんだけど、レースしてて景品が牛って事を伝えたら俄然みんなやる気をだしちゃって」
トカゲ顔のジブルが振り返る。気持ち悪いな。さっきまでは裸だったはずなのに、今はフリフリのワンピースを着ている。なんて言うか、等身大の指人形みたいだ。可愛くないけど。
「これは、楽ねー」
違う首にはマイが跨がってる。デルとミカとルルもしっかり違う首に摑まっている。さすがにアンジュは埋まったままみたいだ。まあしばらくしたら彼女は脱出する事だろう。
「不愉快ですね、私の体になんか柔らかいものが当たってます。巨乳、死すべし!」
「キャアーッ!」
「あーれー……」
蛇の頭が暴れて、ミカとルルは落馬ならぬ落蛇していった。ジブルも胸は小さくはないと思うんだけど、女の子の考える事はわからない。
ヒドラは驀進し続ける事しばし、視界が開けてやっと森を出た。
森を出ると、遠くには数え切れないくらいの馬に乗った騎士が見える。騎士達の前には魔物がちらほら見える。何なんだ?僕らを出迎えてくれてるのか?
ウワアアアアアアアアアッ!
鬨の声が上がり、騎士達はこっちに向かって突撃し始めた。本当に何なんだ?何が起こってるんだ?