脳筋大運動会 10
「ザップ、何あたしまで巻き込んでるのよ。ってここは何?」
マイは穴の底に華麗に着地し、カップの飲み物を口にする。飲み物こぼれてないのか? さすがマイ素晴らしい体幹だ。
それにしてもおかしい。明らかに僕が掘った穴より深く落ちた。どうも下に空洞があったみたいだ。
「光よ!」
シャリーの声がして、頭上に煌々と光の玉が現れる。光に照らされて石組みの壁に囲まれたかなりの広さの部屋が目に映る。
しばらく呆けたかのように僕達は辺りを見渡す。
「これ、何なのかな?」
マイが呟く。けど、当然ながら誰も答える事は出来ない。明らかに誰かに作られたものだというのは解る。けど、森の下にこんなものが有るなんて聞いた事が無い。部屋を挟んで2カ所、黒く穴が空いている。石壁の大きな四角い部屋に出入口があるみたいだ。
「もしかして、誰もまだ踏み込んだ事無い迷宮かも?」
ラパンが少し上ずった声を出す。目がキラキラしてる。僕もだけどラパンは冒険が好物だからな。
「迷宮かは解らんが、未知の建物、地上からかなり落ちたから、誰かの家って訳では無さそうだな」
さっきまで下らない事で争っていた僕達は自然に集まった。もう正直、牛1頭が景品のレースの事なんてどうでもいい。
「で、どうするのよ」
シャリーが足を投げ出して地べたに座る。下品になったものだ。パンツ見えそうだぞ。なんか最近全体的に僕に対して恥じらいが無い。無防備すぎる。まあ、なんら悪い事は無いけどね。
それはそうと謎の地下建造物。なんとなく心が躍る。多分迷宮かなんかだと思われるけど、何があるか何が起こるか解らない所に心惹かれる。見たことのない魔物、希少な宝物。もしかしたら何も無いかもしれないけど、それまでのドキドキがたまらない。
「これは、探索すべきだろう。ちょうどいい事にスカウトのピオン、神官のシャリーもいるし、探索にうってつけだ」
「忍者です!」
「大神官です!」
ピオンとシャリーが異を唱える。似たようなものだけど譲れないのか。
「そうね、あたしたちも探索したい所だけど今日は止めとくわ」
え、マイ、何を言ってるんだ?
マイはカップを収納にしまいラパンの方を見る。待てよ、あたしたちって事は僕も含まれてるのか? 脳筋レースより絶対探索の方が楽しそうなんだが。
「ラパン、じゃあマリアさんに聞いてみるね」
マッスルから普通の女の子に戻ったケイがどこからともなくスマホを出す。スマホは女の子らしくゴテゴテしく飾りつけてある。僕は収納スキルの監理者権限を渡した覚えはないので、どうやらラパンのスキルで出しているのだろう。ん、マイがこっちを見てる。いかん、下着姿のケイをガン見してた。急いで目を逸らす。
「マリアさん、探索していいって、店はしばらくミネアとパイでまわすそうよ」
ケイの手からスマホが消える。ラパンの収納に入れたのだろう。妖精のミネアと忍者2号のパイは店でお留守番か。厄介な2人が居ない事に安堵する。
「じゃ、今からここを探索しようと思う。シャリー、ケイ、ピオン。ついてきてくれるかな?」
「ラパンが行くならしょうがないわね」
シャリーは元気よく立ち上がる。
「マリアさんにたっぷりお土産品持って帰りましょう」
ケイはいそいそと新しいメイド服を着ている。ラパンの収納からだしたのか。
「牛1頭より、間違いなく稼げそうね。どっちに進むか?」
ピオンはラパンに伺う。
「あっちだ!」
ラパンが指差した方にピオンが少し前屈みで警戒しながら歩きだす。
「じゃ、ザップ。僕達は行くよ。頑張って1位になってね」
ラパンの後をケイとシャリーもついていく。魔法の光を伴って4人のメイドたちは建物の奥に消えて行った。
「マイ、で、なんで譲ったんだ?」
「この建物を鑑定してみたの。ここって『害虫駆除の迷宮』っていう名前らしいの。なんか名前からして虫ばっかり出てきそうじゃない?」
「そうか……」
僕も虫は好きではない。けど、メイド女子に囲まれて、『キャーゴキブリ!』って抱きつかれるのも悪くなかったかもな。
「行くぞ!」
未練はあるが、諦めてレースに戻る事にする。
僕とマイは頭上の穴から外に出て、また不毛なレースに復帰した。
『ラパンと愉快なメイドたち』リタイア!