脳筋大運動会 8
「ところで、森の中なのになんでそんなヒラヒラしたの着てるの?」
マイが僕の言葉を代弁してくれた。けど、場違いなのはマイも一緒だ。ショートパンツにシャツだけだからな。けど、そこは突っ込まないどこう。
「それは、制服だからです。今日は仕事の一環としてここに来てます。ウェイトレスの仕事です。ちゃんと時給出ます」
ラパンが腕を組んで僕達の前に進み出る。あんまりテンションが高くない。やる気が無さそうに見える。
「ん、仕事? ウェイトレス?」
マイが小首をかしげる。
「説明不足だったですね。今日、僕達は『みみずくの横ばい亭』のウェイトレスとしてこの大会に参加してます。優勝賞品の牛をお店で出すためと、王都に進出してお店を出す告知のためです」
ラパンが収納から長い布みたいなものを出してシャリーと広げる。
『「みみずくの横ばい亭セカンド」近日王都でオープン予定!!』
横断幕でデカデカと字が書いてある。マリアさんのお店儲かってるんだな。支店を出すのか。
「これを持ってゴールして、王都の人々にしっかり告知するようにマリアさんに言われてるのよ!」
元大神官シャリーが横断幕を畳みながら口を開く。やる気なさげなラパンに比べてこいつは楽しそうだ。
「それはそうと、俺達に魔法をかけたのはラパンなのか?」
「そーだよ、普通にやったらザップには勝てないからね。今回はザップに勝つためにみんなで協力しようって事になってね」
「ほう、そうか、ならお仕置き確定だな。マイ、懲らしめてやりなさい!」
「えー、あたしー、お仕置きって何すればいいの?」
そう言いながらもマイはノリノリで手をコキュコキュ鳴らしながら前に出る。
「僕としては、ザップやマイさんとは戦いたくないので、これを着て僕達と一緒にゴールを目指しませんか?」
ラパンはそう言うと収納からメイド服を2セット出した。
「着てたまるか!」
ラパンは僕にTSスキルを使って女の子になって服を着ろと言ってるんだと思うが、何が悲しくてヒラヒラのメイド服を着ないといかんのか。
「交渉決裂だね。僕はザップの事なら何でも知ってる。全力でいかせてもらうよシャリー!」
ラパンは目をキラキラさせてそう言うと、収納からハンマーを出して構える。何で、僕の回りの人達ってそんなに戦いになるとテンション上がるのだろうか?
「マイ、突破するぞ」
僕はマイに目配せして走りだす。
「神よ、我らに仇なす者に神罰を『神の呪い』からのー、光よ我らに加護を『神聖祝福』」
シャリーの手から出た白いもやが僕達に迫る。あれはいかん、かなりの能力低下を引き起こす魔法だ。あと、ラパンとシャリーを暖かい光が包み混む。あれはとんでもな祝福魔法。確か、全能力上昇と状態異常無効、即死無効に全属性耐性と自動回復というてんこ盛りなバフ魔法だ。
僕とマイはシャリーの魔法をなんとかかわして前に進む。僕とラパンの目が合うが、それは一瞬で目の前のラパンとシャリーは視界から消える。
「キャー!」
「おわっ!」
ラパンとシャリーの下に収納の力で掘った落とし穴に2人は消えていく。なんか大層な事言ってた割には呆気ない。
「「キャッ」」
後ろから迫って来たケイとピオンもでっかい穴に落ちて行く。
僕とマイはラパン達を放り込んだ穴の上を飛び越えて走りだす。なんでみんな僕が素直に戦うと思うのだろうか。これって競争だよね。ゴールしたら勝ちだよね。
僕はなんか心に引っかかるものを感じながらマイと全力で駆け出した。




