脳筋大運動会 4
「無駄に手の込んだ事を……」
僕はついつい呟く。
多分僕達を囲んでいる魔法陣はスキル封印の効果があるのだろう。魔法も封じるのなら、隣で幸せそうに寝ているドラゴン娘は元のドラゴンに戻るはずだ。彼女の人化も多分魔法なので。
今現在、僕は地中に埋められている訳だが、まわりの土は固く指1本動かせない。全力出せばどうにかなると思うが、隣で寝てるマイとアンや魔法陣の外の冒険者達に被害が及ぶかもしれない。もうこのままリタイヤでもいいんじゃと思うが、胸にチクリと腹が立つ。
必要だろう。これを成した者へのお仕置きが!
この恨みはらさでおくべきか!
取り敢えず。
「おい、マイ、起きろ!」
「…………」
マイはノーリアクションだ。いつもは寝起きがいいのになんて強力な魔法なんだ。
「マイ、朝だ、起きろ! 起きろ!」
さっきより声を大きくする。流石にこれで起きるだろ。
「あと10分、あと10分だけぇー」
マイがふにゃふにゃした声を出す。そんなに直立不動で寝るのが心地よいのか?
「寝ぼけるな、起きろ、マイ!」
「にゃー、あと30分、あと30分だけぇー」
駄目だ。『にゃー』って言ってるし、確実に堕ちている。しかも時間増えてるし。
どうする、どうやったらマイを起こす事ができる? 僕が動かせるのは首から上だけ。
唾をかける?
いや人として十分に終わっている。それを考えると少しゾクリとするが、違う決して僕は変態じゃない。
それならば!
「ふーっ、ふーっ」
僕はマイの弱点、猫耳に向けて全力で息を放つ。
「にゃー、にゃー」
駄目だ。逆効果だ。『にゃー、にゃー』いいながら心地よさそうにまどろんでおられる。眼福ではあるが話が進まない。
『これだっ!』
僕の頭の中にかつて古文書で読んだ、口に含んだ鉄球を吐くという攻撃が頭をよぎる。どんな時にそんなもん役に立つのかと思ったが今はそれを参考にさせていただく。
ゆっくり大きく息を吸い込み、口の中で息を圧縮する。
「パウッ!」
僕の口の中で圧縮された空気がマイの猫耳を襲う。マイは僕に横顔を向けていて、ペタンと垂れている耳が微妙に空気でそよぐ。
なんていうか、地面から首だけだして猫耳美少女に息を吹きかけるている僕っていったい……
「んんー……」
おっ、マイが少し動いた。好機! ここで一気に畳みかける!
「パウッ! パウッ! パウッ!」
空気弾三連打!
気の抜けた声が僕から漏れる。
「ひゃうっ!」
やっとマイが目を開く。なんか不本意な事に痴漢されたようなリアクションだな。これもすこしゾクッときた。
「止めて、止めて、くすぐったいって、んーー、ここどこ? なにしてるの?」
僕の努力のかいあり、やっと素面に戻ったマイに状況を説明する。
「あたし達って結構魔法耐性強いはずだから、こんな出鱈目なのはラパンね。あと、こういう地味でマニアックな事するのはジブルね」
マイも僕と同意見で、睡眠の魔法はラパン、穴に埋めて固めて魔法陣を発動したのは導師ジブルという事に確定する。
「これは、とっちめてあげないとね!」
おお、『とっちめる』って言葉使うの久々聞いた気がする。
「ああ、そうだな」
「多分、上に向かって全力で飛んだら回りの被害が少なく抜け出せると思うわ」
「じゃやってみるか」
「「せーの!」」
「はい!」
「しゃーっ!」
ガコン!
僕達は小石や砂煙を巻き上げながら跳び上がり華麗に着地する。掛け声で合わせたのは無意味ではあるが。
「さあ、お仕置きの時間だ!」
「うんっ!」
僕とマイは走りだす。振り返るとドラゴン娘の鼻提灯が弾けていた。奴がずっと眠っている事を切に祈る。