脳筋大運動会 3
『脳筋直進徒競走』
僕がエントリーすることになった、障害物競走は運営からそう名づけられたそうだ。なんて頭悪そうな競技だ……
ルールは至極簡単、スタート地点から真っ直ぐ王都に向かって走るだけ。けど、その途中には、奥地にはまだ魔物がいる『北の森』が控えている。因みに殺人以外は何をしてもいいという、とっても緩いルールだ。森を破壊しまくっても燃やし尽くしてしまってもおとがめは無いと言う。まあ、もっとも牛1頭のためにそこまでする人間は居ないと思うが。
乗り合い馬車に揺られて僕達はスタート地点にやって来た。もしかしたら参加者は僕達だけかもと思っていたが、かなりの人数が集まっている。100人位いるのではないだろうか? 王都は馬鹿ばっかなのか? それに参加してる僕らにもブーメランだが……
その中にはちらほら知り合いもいるように見えるが、人が多いので確認出来たのは数人だ。少女冒険者四人組の1人、魔法使いルルと現役の王都最強冒険者『地獄の愚者』のマッスル黒エルフのネクロマンサー? のレリーフが確認出来た。あいつらも暇なのか? こんなクソのような大会にエントリーするとは。
こんな大会に出るよりも迷宮にでも潜っていた方がお金になると思うのに。
カイゼル髭の変態領主が拡声の魔道具を手にルール説明を始める。
殺しは駄目よ的な事をクドクドと言って場を盛り下げている。運営に参加しているからか、今日は貴族的なビラビラ多めな一応まともに見える格好をしている。
「それでは健闘を祈る」
大きな旗を持った、バニーガール姿の女性が2人現れる。大地には1本の線が引いてあり、それがスタートラインだ。みんな位置につく。僕らは面倒くさいので、かなり後方に位置どる。どっちにしても僕達は雑魚はすぐに抜き去るだろう。因みに僕の隣にはマイとドラゴン娘アンがいる。幼女導師ジブルは仕事とか言ってたけど、なんか空々しかったので、多分この中に紛れているのではと思う。あいつも正真正銘の馬鹿だしな。
「それでは、用意、スタート!」
領主の声に合わせてバニーガールたちが旗を振る。僕達は走り始める。
「スリーーーーーーーープ!」
誰かの声がする。ん、ラパンの声のような?
と、思った途端視界が真っ暗になった……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「なんじゃこりゃあ!」
目が覚めるなり僕は叫ぶ。僕とマイとアンは地中に埋められて首だけ地上に出ている。そして僕達から少し離れた所には沢山の人が寝ている。マイもアンもグースカピーだ。アンなんて器用に鼻提灯を発動している。見た目美少女なのに残念な事この上ない。しかも何の効果があるのかわからないが、ご丁寧に僕達を中心に光り輝く魔法陣が描かれている。取り敢えず、回りの土を収納に入れて脱出しようとするが、なんと収納スキルが働かない。
誰か知らないけど、いきなりぶっ放しやがったな。こんな非常識な精神魔法を使えるのはラパンしか思い浮かばない。あと、穴を掘って埋めて地面を固くして封印の魔法陣が配置してあるみたいだ。多分複数の術者が素晴らしい仕事をしている。牛1頭のために。
僕は今気が付いた。これは唯のレースでは無い。複数の卓越した技術を持つもの達が打倒ザップの為に手を組んでいることを……