脳筋大運動会 2
「牛1頭! その話、のったーっ!」
ドアの開く音と共に緑色のワンピースの少女が部屋に飛び込んでくる。頭に2本の角が生えていて、1本は折れている。ドラゴンの化身アンだ。
すげーな、いつもは何があっても起きないのに、食べ物の話を感知したのか?
「おお、ドラゴン娘じゃないか。久しぶりだねぇ、こりゃ楽しみだ」
変態領主はカイゼル髭をいじっている。気持ち悪い。ちょん切ってやりたい。
「えー、何、牛、牛1頭がどうしたの?」
寝ぼけまなこのマイも登場。今度は上からもう一枚羽織っている。
「んんーっ。お久しぶりですね。綺麗なマドモァゼル。今度、王都で開催される、大運動会の障害物競走の景品が、なんと牛1頭、牛1頭分のお肉なのですよ。当然その牛は肉を食べるために育てたもので、24ヶ月間肥育した、未経産の雌牛でありますよ」
領主が大袈裟なジェスチャーつきで熱弁する。
「え、肉専の未経産!!」
マイの目が見開かれる。訳わかんないけど、そんなに驚くような事なのか?
「ありがとう、領主様。ザップ、出るわよ、出てお肉いただくわよ」
マイのテンションがだだ上がりだ。なんだかなぁ……
「マイ姉様、勝負ですね、私は負けませんよ!」
マイとアンがしばし睨み合う。
「わりーが、俺、パスな。マイとアンが出たらどっちか優勝できるんじゃねーか?」
領主からの話だ、ロクなもんじゃない感がハンパない。ひでー目に合って、たった牛1頭分の肉じゃ割り合わない。
「えー、何いってるのよザップー、牛よ牛1頭よ!」
「そうですよ、ご主人様、牛、牛1頭ですよ!」
マイとアンが僕に詰め寄る。なんだ、なんだ、牛1頭ってそんなに魅力的なのか?
もしかして、たかだか牛1頭って思っている僕の感覚がおかしいのか?
もしかして世間一般では牛1頭の肉のために命を賭けたりするものなのか?
「ザップ君、レディ達のお願いを聞いてあげるべきではないのかい? それが男の甲斐性ってものだろう。彼女たちのために一肌脱いでみないかい?」
ぶわさっ!
変態はそういうと立ち上がり、両手を開きマントを開く。きたねー体が現れる。間違いなくこいつは『脱ぐ』と言いたかっただけだ。
「「きゃー」」
わざとらしくマイとアンが目を手で隠して悲鳴をあげる。いっそのこと僕も脱ぐか?
「ファイヤーボルト!」
「あつっあつっ、やめ、やめてーっ!」
取り敢えず、僕の7色のファイヤーボルトで領主の胸毛を焼却してやった。けど、毛の燃える気持ち悪い臭いが充満し、朝からかなり嫌な気分になった。