脳筋大運動会
「おはよう。ザップ君」
家の玄関のドアを開けると朝焼けに照らされて赤く染まった気持ち悪い生き物がいた。早朝から勘弁して欲しい。
上半身裸の細マッチョで短く刈り上げた髪に特徴的なカイゼル髭のおっさん。かつて僕達が滞在していた町の領主様だ。まずなんで脱いでる? それに領主なのになんで1人? どうやってここまで来やがった? 色々疑問はあるが、あからさまなツッコミ待ちを弄るほど僕は落ちぶれてない。
取り敢えず見なかった事にしてドアを閉めロックする。
「んー、ザップ、誰だったの?」
パジャマのマイが寝ぼけまなこで目を擦っている。んー、ちょっと、いや、かなり可愛い。なんか胸的なものの揺れ方から下着的なものをつけてないように見えない事もないが、ここは視線を向けないのが正義だ。
「変態だ。関わると変態がうつる」
「そうね、変態なのね、それならまた寝るわ」
マイ、明らかに寝ぼけてるな。マイは部屋に帰って行く。
コンコンッ!
「ザップ君、はるばる来たというのにそれは貴族に対する態度としては失礼なんじゃないのかな?」
外から変態の声がする。『お前の格好の方が貴族として失礼だ』と言いそうになるが言葉を飲み込む。構ったら負けだ。放置して、またまどろむ事にしよう。
「ザップ君。何故私が上の着衣を脱いでいると思うかい?」
立ち去ろうとしたが、なんか嫌な予感がして脚を止める。面倒くさいが、少しだけ変態の言葉に耳をかたむける事にする。
「ザップ君。君はここでも見目麗しい女性たちに囲まれて暮らしているそうではないか。ここで私が大きな声を出したらどうなるかな? 賢い君ならこの意味わかるだろう」
カイゼル髭に胸毛を蓄えた上半身裸のおっさんが家の入り口で叫ぶ。多分隣のお店のマリアさんたちは早起きなので出てくる。ついでにラパンやシャリー、忍者1号2号と猫耳ケイも出てくる。
「君は女の子達に誰1人手を出してないみたいじゃないか。それっておかしな事だよね」
扉越しに領主が気持ち悪いポーズをとってるのが見える気がする。こいつを家に入れるか、家の外で叫ばれるか。どっちも嫌だ。一瞬、抹殺するという第3の選択肢も頭をよぎる。
「俺の負けだ。入れ」
僕はやむなく変態を家に招き入れた。流石にマリアさんとこの女の子達や近隣住民におっさんの恋人がいると思われたら、また旅に出るしかなくなるだろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「秋の王国大運動会に参加してもらう」
「却下!」
おっさんは座るなり訳の解らない事をほざく。当然却下だ。
あんまり気持ち悪いので、マントを貸してやったのだが、奴はすわって両肘を机についているので、気持ち悪いものがチラチラ目に映る。特に縮れた胸毛をなんとかして欲しい。あと、そのマントはさよならだな。
「お前ならやると思うぞ。なんとお前に出て貰おうと思うメインイベントの障害物競走の商品は……」
おっさんは言葉をためる。ウザイ。ウザすぎる。
「なんと」
大きく息を吸い込みになられている。
「なんと、牛一頭!」
立ち上がり、僕の方に手を差し出している。どんなジェスチャーだ。
「領主様、お引き取り願えますか?」
僕は部屋の扉を開け、領主様に退出を願い出た。
見直すと、まじ、ひどい話ですわ。朝からブーメランパンツの変態は見たくないですね。2022.5.21。