勇者への復讐
この節目で、勇者の話を書きたかったので書いたのですが、異様に長くなってしまいました。読んでいただきありがとうございます。
「勇者アレフは俺の獲物だ!行くぞ帰らずの森に」
「はいはい、獲物なのね、じゃ急ぎましょ、勇者がやられないように」
マイがなんて言うか、屈託ない笑顔で僕を見ている。なんか勘違いしてないか?僕は勇者を助けに行く訳ではない。その心を完膚なきまでにへし折ってやるために行くのだ。
「久しぶりに思いっきり暴れられますね」
ドラゴンの化身アンも笑顔だ。最近ドラゴンの姿を見てないな。暴れ足りないのだろう。たまにはのびのびさせてやるか。
「私はそれでは留守番ですね」
見た目幼女の導師ジブルがニコニコしている。そんな訳ないだろ。
「ジブル、お前もついてこい。色々手伝って貰うからな」
僕達の中で1番索敵能力が高いのはジブルだ。なんか色々魔法でやってくれる。
「ええーっ、九団でしょ、犯罪奴隷ばっかりなんでしょ、勘弁してくださいー」
僕はとりあえずジブルの襟首を掴んで連れて行くことにした。
昔僕を追放したパーティー、『ゴールデン・ウィンド』のメンバーだった、大陸一の魔女と呼ばれたポポロと、稀代の聖女と呼ばれたマリアが言うには、勇者アレフは犯罪奴隷として、愚連隊騎士団に放り込まれて決死の突撃をさせられると言う。
正直勝手に野垂れ死んでくれと思うが、ふとした拍子にアレフの顔が僕の頭にチラつく。もう吹っ切れた、乗り越えたと思っていたけど、まだ割り切れないモヤモヤしたものが残っている事に気づいた。僕の心は満足してない。勇者アレフもろともその想いを打ち砕いてやる。
僕は拳を握り締め、仲間たちと帰らずの森に向かったのであった。
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帰らずの森は南北に王国と東方諸国連合の国境をまたいでおり、その南に精鋭揃いの王国第1騎士団と、兵站部隊が展開していた。騎士団の仕事は逃亡防止の為だろう。犯罪奴隷集団の第九騎士団の面々には3日分の食糧を持たせてあり、同士討ちしないように魔法をかけてあるそうだ。今日が3日目で、今日の日の入りで遠征は終わる。まあ、犯罪奴隷だからって言っても雑な扱いだ。ただ、飯を渡して森に突っ込んで戦って来いはひどいだろう。睡眠とかはどうするのだろ。要は、犯罪奴隷の間引きも兼ねているのだろう。話によると遠征参加者は重い犯罪や犯罪常習犯と志願者だけらしいから。
アレフが生きてたらいいのだが……
ジブルに探してもらったら存外簡単にアレフの居場所は分かった。やはりここでも嫌われ者で孤立無援で戦っている。
僕達は急いでそこに向かう。
血塗れの赤い髪、満身創痍で地面に剣を突き刺しもたれかかっている。その瞳には生気は無いが、間違いなく勇者アレフだ。
辺りには死屍累々と魔物が転がっている。流石腐っても勇者。
けど、その旗色は悪い。アレフに向かってトロールの上位種ボストロルの一団が近づいている。
やった。ギリギリ間に合ったみたいだな。
近づいてきたボストロルにアレフは駆け出しその首に一撃を放つ。普段だったらボストロルの首を刎ねていたであろう一撃はボストロルの手にした金棒に阻まれる。その瞬間その後ろから来たもう一匹の振るったハンマーがアレフを捉え吹っ飛ばす。転がったアレフは動かない。仰向けで澄んだ目で空を見つめている。そこにボストロルがゆっくりと近付き金棒を振り上げる。アレフはゆっくりと目を瞑る。
ドゴン!
僕のハンマーが一撃でボストロルの頭を爆ぜさせる。その血潮がアレフに降り注ぐ。目を空けたアレフと僕は目が合う。その目はかつての僕の目、英雄に憧れる者の目だ。
そして僕は近付くボストロルの一団に突っ込んだ。
やっと、吹っ切れた気がした。憧れる者から、憧れられる者に。
僕は仲間たちと思う存分魔物たちを蹂躙し始めた。