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 ゴールデン・ウィンド


 今でも王都の冒険者ギルドに行くと当時の事を思い出す。ギルド右手最奥のテーブル。王都で最強の冒険者達の席。今は戦士デュパン率いる僕達が養殖したパーティー『フール・オン・ザ・ヘル』の定位置だが、当時は大陸最強と言われた『ゴールデン・ウィンド』の席だった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「おい、お前、収納持ちなんだってな。俺のパーティーに入れ」


 金色の髪の勇者アレフが僕の目の前に立ってもいる。一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。


 僕はいつものギルドの定位置、荷物持ち達がたむろするギルドから入ってすぐ右側のテーブルで仕事待ちをしていた。

 ギルドのテーブルは奥に行くほど力があるものの定位置で、僕達がいるテーブルは底辺の者が集まる。冒険者としては役立たずで、その荷物持ちしか出来ない者、老人や子供や武器を買うお金が無い者などが集まっている。

 依頼を受けた冒険者パーティーが、荷物持ちが必要な時は出発する前にここで声をかけてくれる。そして提示された金額を聞いて希望者が群がり冒険者が誰か選ぶ。冒険者達が出払い仕事にあぶれたら、ギルドのだれでも出来る依頼、どぶさらいや工事人足などをする事になる。

 今日は声がけが無く、工事にしよっかなと思っていた所だ。工事現場では僕は大人気でいつも親方はうちで働けと言う。僕の魔法の収納のスキルはそこでは引っ張りだこだ。かなりの高額好待遇でスカウトされているのだが、僕には夢がある。名高い冒険者になる事だ。昔僕達の村が襲われた時に助けてくれた冒険者みたいに、弱い者を助ける冒険者に成りたい。


 そんな事を考えていたら、ギルドの奥の方から誰かが歩いて来た。荷物持ち仲間はもう仕事に出払ってるので、もしかして僕に何か用事なのかな?と、頬杖をついてぼーっと考えていたら、来たのはなんとこのギルド最強の冒険者。

 僕は背筋をピンと張る。先日その強さを目にしたばかりなので特に緊張する。顔が熱くなるのを感じる。まるで好きな女の子に今から告白するみたいだ。もっともそれが実った事は一度も無かったけど。


 そこで勇者アレフが僕に話しかけて来た。ぱっちりとした目、バランスよく高い鼻、まるで紅を引いたような唇に白い肌。その青い強い意志を秘めた双眸が僕を見ている。僕が女の子だったら、即、恋に落ちた事だろう。いや、男の僕でさえ見惚れてしまった。


 頭の中でアレフの言葉を反芻する。


『おい、お前、収納持ちなんだってな。俺のパーティーに入れ』


 え、荷物を運べじゃなくて、パーティーに入れ?


 どういう意味だろう?


 パーティーに入れって事は、僕が『ゴールデン・ウィンド』の一員になるって事?


 僕が『ゴールデン・ウィンド』の一員?


 僕が王都随一のパーティーの一員?


 え、何で僕?


「お前の力を俺達に貸して欲しい」


 憧れの勇者が更に顔を近づけてくる。


 心臓の鼓動が速くなる。握りしめた両手の中がじんわりしてくる。


 勇者が右手を差し出す。剣に生きる勇者が僕なんかに利き腕を差し出している。僕なんかをそんなに信頼してるのか?


 勇者の目尻が下がり、口角が少し上がる。僕の心臓は破裂しそうだ。夢か、いや夢じゃない。この手を僕は握るべきだ。

 僕は立ち上がり震える右手を服で拭い憧れの勇者の手を握る。それに拭った左手も添えて頭を下げる。涙がこぼれそうになるのを必死に堪える。今まで何一ついいことは無かった。それでも頑張って来た。それが今日報われたんだ。


 僕は、まるで全世界が自分のためにあるような激しい高揚感に包まれながら顔を上げる。

 そこには優しい微笑みを浮かべた勇者アレフの顔があった。


「仲間に紹介する。いくぞ」


 僕は勇者の手を離す。奥のテーブルに向かう勇者について行く僕は沢山の視線に囲まれているのに気付く。そして『ゴールデン・ウィンド』のテーブルについた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 時がながれた今でもその時の事を鮮明に思い出す事が出来る。その時は、僕の人生に置いて最高、最高に嬉しい瞬間だった。


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