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 英雄との遭遇


「おめーは、こっちくんじゃねーぞ!」


 僕の依頼主である冒険者パーティーのリーダーはそう言うと剣を抜き走って行った。僕は木の陰に隠れる。今回は簡単なゴブリン退治の依頼のはずだった。僕はその依頼を受けた冒険者の荷物を運んでいる。



 僕の名前はザップ・グッドフェロー。沢山の物を入れる事が出来る魔法の収納のスキルをもった荷物持ちだ。いつかは名の売れた冒険者に成りたくて、冒険者達の荷物持ちをしている。



 木々に囲まれた山道で冒険者達は戦っている。僕が同行しているパーティーは、戦士4人のパーティーで押し寄せるゴブリンを何とか押さえている。緑色の肌をした人間の子供くらいの背丈の魔物、ゴブリン。一匹一匹は大した強さでは無く、一匹打撃ならば僕でもなんとか戦えると思う。けど、そいつらが戦士1人に対して三匹ほど群がっている。

 今は冒険者の方が優勢でなんとかゴブリン達の数を減らしていっている。一瞬、僕は彼らを置いて逃げようかという考えが頭をよぎったけど、こっちにはゴブリンが来ることは無いので安全そうだ。戦士4人ってパーティーはバランス悪いと思ったけど、こういう風な乱戦になった時は心強いと思った。


「おかしいぞ!なんでこいつら逃げない?」


 冒険者のリーダーが声を張る。数えられないほどいたゴブリン達はその半数ほどが地に伏している。そういえばおかしい。僕はゴブリン退治についてきた事は何度かあるが、臆病な奴らは不利だと思うとすぐ逃げる。ゴブリンを退治するとき面倒くさいのは逃げたゴブリンを追っかける事だと、このパーティーのリーダーもぼやいていた。

 ゴブリン達は必死だ。仲間が倒れても倒れても冒険者達に挑みかかる。


「なんだぁ、あのでかぶつは?」


 1番前で戦っていた戦士の声がする。その前の木々が生い茂った藪が揺れる。そこから、猫背の巨大な生き物が現れた。ゴブリン達を束ねるリーダーがいたんだ!


「トロールだトロール!」


「何でトロールが……」


「逃げるぞ」


 戦士達は明らかに狼狽える。


「うがっ!」


 トロールと呼ばれた巨人が駆け出したと思った瞬間、そばにいた戦士が吹っ飛ばされた。恐ろしい距離飛んでいく。

 巨人の手には節くれ立った木の巨大な棍棒が握られている。


「おがっ!」


 棍棒が振るわれゴブリンごともう1人吹っ飛ばされる。


 に、逃げないと……


 けど、あまりのおそろしさに膝が笑っていう事を聞いてくれない……


「ぐえっ!」


 為す術も無くもう1人……


 僕は力が抜けてその場にへたり込んでしまう。


「グアアアッ!」


 ゴブリンと拮抗してた冒険者のリーダーもトロールに襲われて地を転がって行った。


 もうここまでか……


 僕を見つけた巨人がこっちに向かってくる。目が合った。巨人は口角を上げる。僕は喰われてしまうのだろうか……


 巨人が近付いてきて、その凶悪な棍棒を振り上げる。僕は恐怖に目を瞑る。


 ザシュッ!


 おかしい、痛みが来ない。代わりに生暖かいものが僕に降り注ぐ。


 目を開けると、首のない巨人が血潮を上げながら後ろに倒れていく。その横には光り輝く剣を手にした金色の髪の男が……


 勇者アレフ!


 冒険者ギルドで見かけた事しかない、英雄がそこにはいた。

 血刀を振り血を落とし僕の方を一瞬振り返る。軽く口の端をゆがめると、残ったゴブリンの方に歩き出した。

 名の売れた戦士4人を赤子の手を捻るかのように蹂躙した巨人の首を一撃で……

 凄い、凄すぎる。こんな人間がいるなんて……


 僕は、腰を抜かしたまま、ゴブリン達がなぎ倒されるのをただ見つめていた。


 夢の中にいるようで、やっと今、助かったという事を実感した。


 そして、勇者と僕の物語はここから始まった。


 

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