巨大百足
「で、何でムカデ狩りなの?」
僕は腰に手を当ててミネアを非難する。だってムカデだよムカデ。しかも巨大ムカデ。あの家の中に入ってきたりする気持ち悪い奴の巨大バージョンだ。正直勘弁来して欲しいよ。
「そりゃ、秋だからよ。秋は夏の日差しを浴びてすくすくと育った大ムカデのシーズンなのよ。それに、ラパン、討伐系がいいって言ったじゃない。これしかなかったんだってば」
ミネアは口を尖らせる。確かに僕は討伐系がいいって言った。虫系は止めてって言わなかった僕が悪いか……
「しょうが無いな。じゃ、ミネア、行くよ」
まあ、受けてしまったからにはしょうが無い。諦めて巨大ムカデを狩りに行くしかないか……
僕の名前はラパン・グロー。もうそろそろ駆け出しは卒業してもいいかもと思ってる冒険者だ。
今日は朝から少し用事があって、妖精のミネアに先にギルドに行って依頼を選ぶように頼んだのが間違いだった。
ミネアは森育ちで虫とかはなんとも無いと思うけど、僕はこう見えて元々は深窓の姫君(笑)だったので、すこぶる虫系は苦手だ。ダンゴムシですら見たら怯む。ダンジョンに潜っていた時はうす暗かったのと必死だったので平気なふりをしてたけど、出来れば勘弁して欲しい。
「ねぇね、ラパン、ムカデって食べられるらしいわよ、しかも結構美味しいらしいわよ」
ミネアが僕の頭の周りを飛びながら、恐ろしい事を口にする。ムカデを食べる?
僕はぶんぶん首を回し、恐ろしい考えを追っ払う。
「じゃ、食べればいいよ」
「ラパンも」
「嫌!」
「他に食べるものが無かったとしても」
「そう言う例え話はしないで、本当に僕は虫は嫌いなんだって」
「ラパンはまだ子供ねー、食べられるものは何でもトライしてみないと人生損するわよ、あたし昔蜂の子って奴食べた事もあるけど、あれってまじ美味しかったわ」
むぅ、流石ミネアは勇者だな。怖いもの知らずだ。虫を食べるって事を考えるだけで、鳥肌が止まらない。
「ラパン、こっちこっち」
ミネアに言われて街道をそれて林に入る。下調べバッチリで、ムカデの狩り場をしっかり覚えてきたそうだ。どれだけムカデを狩りたいんだろう?
ちなみに狩ったムカデは何らかの薬の材料になるそうだ。と言う事は本当に食べられるのだろう。
「ラパン!いたわよ!」
森の奥深く。僕は何度も帰りたいと思ったのに、運命の時が来たみたいだ。
いた、いやがった。赤い頭に黒いボディ。足がウヨウヨついている。か、帰りたい。僕は勇気を振り絞り、魔法の収納からハンマーを出して構える。デカい。あいつ、立ち上がったら僕よりも背が高いのでは?
僕はジリジリと近づく。見たくない。ムカデがこっちを向く。目が合った?
「炎の幻影」
僕は目に魔力の炎を灯す。本当に久しぶりの僕の必殺技、目が合った者に幻覚を見せる魔法だ。
ガサガサッ!
大ムカデがのたうちまわる。効いたのか?
けど、再びこっちを大ムカデが向く。しかしその頭は2つある。けど、その2つの頭は1つの胴体につながっている。擬態か?多分どっちかが頭でどっちかが尾っぽだと思う。
ムカデに幻術をかけたはずが逆に惑わされている僕がいる。なんてこったい……
けど、甘いな!
とごむっ!
僕はハンマーでなぎ払い、同時に頭と頭っぽいものを破壊した。残心するが、ムカデはもがき続ける。キモイので距離を取るが動かなくなるのに5分以上かかったのでは?下等動物恐るべし。
「ラパン、やっと終わったわね」
「ミネア、逃げたでしょ」
「上で見てたわよ。あたしの魔法じゃ木っ端微塵にしちゃうから……ごめん、怒らないでーっ」
ミネアを掴もうとした手は空を切った。せっかく食べたがってたムカデを食べさせてあげようと思ったのに。
卑怯な事にしばらく妖精は高い所を飛び続けた。