天高くオーク肥ゆ
青い空に刷毛ではいたような淡い雲がたなびいている。夏の入道雲は存在感があり、上空までどうにかして飛び上がればてが届きそうな所にあったのに、今見える雲は空の遙かかなたに有るように見える。天高く馬肥ゆ。昔の言葉だけど、まさにそんな感じだ。遠い雲を見ると、夏が終わり秋が近づいて来たのを感じる。
「秋口になると、野山の恵みを受けてゴブリンやオークが大量発生する事があるわ。そして食べ物を食べ尽くし山から人里に下りてきて悪さしたりするのよ」
マイが遠い目をしながら語っている。多分、あまり良くない思い出があるのかもしれない。いつか話したくなったら話してくれるだろう。
マイは自分の事をあまり語らない。考えてみると、僕は出会ってからのマイの事しかほとんど知らない。知ってるのは、旅をしていたという事くらいだ。
まあ、それでいいと思う。マイはマイだからだ。
「その、秋口のオークは秋オークって言って、いつもより美味しいんですよね。ご主人様が二足歩行の生き物は食べたがらないから最近は食べて無いけど、ここはいっちょ試してみませんか?」
僕はオーク肉はまだ口にした事が無い。昔はお金が無く高級品だったからと言うのがあるが、やはり二足歩行である程度知恵がある魔物は何となく食べる気がしない。
そういえば、アンについてもあまり過去の事は知らない。ていうか、本人自身が食べ物以外の事を忘れてるみたいだ。
長い時を生きてきたらしいので、元々は博識だったらしいから、本当に全てが残念だ。まあ、アンらしいと言えば、アンらしいが……
「オークは普段何でも食べて、いつもは飢えたら土でも食べると言うわ。だから普段のオークは柔らかくて美味しくはあるけど独特のクセがあるらしいわ。けど、夏の終わりから秋にかけては木の実や茸が沢山あるからそれらを食べているから臭くない事が多いって事らしいの」
マイもオークを食べた事が無いのか?今日は勇気を出してトライするつもりだから、マイも初オークにチャレンジして欲しいものだ。
「あっ、いましたいました!」
アンが指差す方には5,6匹のオークが見える。本当に立ち上がった豚だな。迷宮ではドロップ品を集めるだけで、肉は無視してたからな。けど、よく考えたら犬よりは豚の方が美味しいに決まっている。
僕達はオーク討伐の依頼遂行中だ。少しの数でも一般人にとっては脅威だ。しかもここまだ街道で山からは距離があるのに。
「行きますっ!」
「待って!」
飛び出すアンをマイが止めるが、アンは走り出すと変身を解き巨大なドラゴンに戻った。なんか久しぶりだな。まあ、町や村からは遠いからいいか。ていうか、また、魔法の服しか着てなかったな。相変わらず裸族治らないな……
「グオオオオオオオーッ!」
アンの口から出た炎がオークを包み込む。一瞬でオークたちは動かなくなる。辺りを焼豚の香りが包む。美味しそうだ。
「見て下さい。力加減を覚えたので、いい感じに焼けてるでしょ!」
人間スタイルになったアンが駆け寄ってくる。オークたちはいい感じに毛が燃え豚の丸焼きになっている。
「アンちゃん、血抜きと内臓取らないと美味しくならないのよ……」
マイがやれやれポーズを取る。
そういえば、昔、僕もそれ教えてもらったな。アンも知ってるのでは?
「あーっ、そうですね、つい、修行の成果を見せたくて……」
年をとってもこいつは子供だな。
僕達はオークを回収してギルドで売ったけど、やはり買い叩かれた。一頭だけ取っておいて初めてのオークを口にしたが、犬よりマシだけど美味くは無かった。当然マイは食べなかった。かなり余りそうだったが、アンに責任もって食べて貰った。