忍者2号(中編)
「初めまして、パイちゃん。マリアです。よろしくね」
少し薹が立った女性がやって来る。今でも魅力的だが若い時は凄かっただろうな。マリアさんって事は確かこの店のオーナーだな。
「世話になります。パイです」
潜伏任務でウェイトレスの真似事などしたことも多々あるから、ここでもそつなくこなす事はできるはず。諜報においては給仕に化ける事は必須だ。役人などはついポロッと酒の席では重要な事を漏らす事もある。
しかも大きなパーティーなどでは臨時で人を雇う事が多いから部外者が働いてるふりをしてても解らない。さらに私の見た目は万人受け、特に男性なのでホテルや飲食店などに潜伏したらやたら食べ物を貰える。
だから個人的にはこういう仕事は好きだ。暗殺者を引退したらいつかお店でもやってみたいと思っていて、様々な土地に行くたびにそこの名物を食べて、そのレシピを聞いたり盗んだりして集めて来た。
しばらくここで働いてみるのもいいだろう。
キッチンの調理長や他のアルバイトとかに挨拶して、店のメニューやテーブルの位置や、物の配置などを確認する。昼は食堂、夜はバー。まあ普通の店だ。それにしては客席が多い気がするが、大人数の宴会とかをやってるからだろう。
「いらっしゃいませー」
わたしは猫なで声を放つ。仕事だ。わたしは闇の忍者スパイダーではなくて、ウェイトレスのパイだ。プロとして仕事を全うするだけだ。
それは戦場、戦場だった。弓矢の代わりに食べ物が飛び交い、剣や盾の代わりにトレイを手に走り回った。
広いと思っていた店内は満席になり待ちがでる程。まるで王都の繁盛店みたいだった。正直、奥の手の『秘技影分身』を使おうかと思ったくらいだ。
一緒に客席で接客していたのは、ラパンとシャリー。ケイとピオンは休みだそうで、ピオンはしばらくわたしに色々教えると帰って行った。
お昼時もすぎ、やっとちらほら席が空いてきた。
バンッ!
大きな音を立てて扉が開く。背をかがめるようにして大男が入って来て、それに3人続く。大男は皮の鎧の要所を鉄板で補強したものを纏い腰に剣を佩き背中に大盾を背負っている。首元には暑いのに烏の羽根を集めたような襟巻きをしている。後ろの3人も鉄板で補強した革鎧に剣と盾、全員装備は手入れされているが使い込んであり歴戦をくぐり抜けてきた事を証明している。
4人は大男を上座に空いてるテーブルに座る。
「いらっしゃいませー」
ラパンが笑顔でメニューを持っていく。天然なのか? こいつら明らかに剣吞だろ。わたしは奴らの戦力を分析する。大男だけならわたしで殺れるとおもうが、あと3人はきつい。うー、なんでピオン帰ったんだよ。
「酒だ! 酒をもってこい!」
大男の耳障りな胴間声が店を揺るがした。