どんぐり採集
「ラパン、なんか面白い依頼、貼ってあるわよ。これ、これ、これにしましょう!」
僕の頭の回りを妖精のミネアが依頼の紙を持ってパタパタ飛んでいる。正直ウザイ。手のひらサイズの体に蝶のような羽。珍しい種族なはずだけど、この町では馴染んでいて、ガン見してくるのは旅人くらいなものだ。
僕の名前は、ラパン・グロー。駆け出しの冒険者だ。今日は住んでる町の仮設冒険者ギルドに来ている。
「んー、ミネア落ち着いて、飛んでちゃ見えないよ」
ミネアの持ってる紙は綺麗なので、新しい依頼っぽい。
「はーい、見てみて」
僕はミネアから紙を受け取る。
『どんぐり採集。豚の餌のどんぐり買い取ります。買い取りの目安はギルドの薬草籠1杯で銅貨3枚』
ん、どんぐり採集?冒険者ギルドってどんぐりも買い取ってくれるのか。他のギルドで見た記憶は無いから、この町ならではの依頼なんだろう。
「豚の餌?豚ってどんぐり食べるの?」
「あんた、何にも知らないのね。どんぐりしこたま食べさせたら、豚は美味しくなるのよ、どんぐり豚って言って、普通の豚より高級な豚になるわ」
さすがミネア、人里に来て長くない筈なのに、食べ物については博識だ。
買い取り価格は、集め易い薬草と同じくらいの価格だな。まぁ、お金にはあんまりならないけど、なんて言うか、秋ならではって依頼だからやってみてもいっかな。
「ミネア、当然手伝ってくれるよね?」
「まっかせなさい。あたしどんぐり集めるの得意なのよ、山にいた時はよく食べてたから」
「どんぐりって美味しいの?」
「美味しいなら猫も杓子もどんぐり毎日食べてるわよ。要は文字通り豚の餌ね。とんがった渋くないのはまあ食べれるけど、まるくて渋いのはアク抜きしても美味しくないわ。あたしの嫌いな食べ物トップテンに余裕でランクインするわね」
「えー、じゃ、なんでこの依頼受けるの?」
「そりゃ、どんぐりよ、山の中にしこたま落ちてるあれがお金になるなら、そりゃ集めるわよ。あたしも豚も喜んで一石二鳥よ!」
ミネアの勢いに押されて、僕はどんぐりを求めて山に向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
僕達は黙々とどんぐりを拾って籠に入れて行く。さすが山育ちなだけあって、ミネアは的確にどんぐりの木を見つけた。ちゃんとミネアは人間スタイルになって働いている。
「全部集めたね、ミネア、次よろしく」
「まっちなさーい!ミネア、キーック!」
ミネアはどんぐりの木に見事なドロップキックを決める。蹴った木を起点に宙返りしてシュタッと着地する。
ぼとぼとぼとぼと
「キャーーーッ!」
ついつい叫んでしまう。どんぐりと山のようにカナブンが落ちてくる。僕は木の根元から飛びすさる。
「ラパン、いっぱい落ちてきたわよ」
ミネアは体にカナブンをたくさんつけて、どんぐりを拾っている。いっぱい落ちてきたってカナブンの事なのか?
「カナブン、ついてるよ」
「大丈夫、大丈夫、無害だから」
無害だからって、すごい神経だ。山育ちすごい。僕は無理だ。やっぱりミネアは虫の一種なのではと頭をよぎるけど、禁句なので口にはしない。
僕はカナブンを踏まないようにしながらどんぐりを拾う。
「ラパン、次にいくわよ、全部拾ったら山の小動物の食べ物なくなるから」
どんぐりを少し残してミネアは立ち上がる。
「小動物ってミネアの事?」
「そうそう、あたしのような小動物が冬に向けてどんぐり蓄えるから、って違うでしょ、あたしはどんぐりは卒業したわ」
そんなこんなでどんぐり採集を堪能したけど、まだ季節が早すぎたので、集めたどんぐりは晩御飯代にも足りなかった。