スライム大発生
「いくら何でも多すぎだろ……」
僕達の目の前には青い海が広がっている。とは言っても讃えているのは海水ではなく、無数のブルースライムだ。
温暖な気候と、大量の雨、それと栄養になる良く育った草木。それらの条件が揃って、近くの山でブルースライムが大量発生した。
それらは本能のままに南下して存在する全ての生き物を飲み込みながら更に数を増やしている。僕達の住んでいる町はそのルートからギリギリ逸れてはいるが、なんか起こってスライムが進路変更するかもしれない。
一応、町の仮設冒険者ギルドには依頼が出てはいるが、雀の涙くらいの額だ。数千のスライム討伐に割り合う金額ではない。
僕達が半分ボランティアでその依頼を受けた事はたちまち町に広まり、すぐにギルドを後にしたのにも関わらず、かなりの人々が僕らを遠巻きに見ている。
ドラゴンの化身アンに変身を解いてもらってブレスで一網打尽にして貰おうと思っていたが、この平和な町の人々がドラゴンを見たらどうなるか……
興味がわくところではあるが、その後の処理が大変そうなので我慢する事にする。
しかも大量破壊兵器である、幼女導師ジブルは、学校の準備があるとかで魔道都市に帰っている。使えんな。タイミングが悪い奴だ。
「アン、ドラゴンは無しだ。物理で蹴散らしてこい!」
「あいな!」
アンはスライムの海に躊躇いなく走って行く。エンゲージするなりガツガツスライムを踏み殺していく。
「なんか、かっこ悪いわね……」
僕はマイに頷く。
なんて言うか、地団駄踏んでいる。多分熱い鉄板の上に人が立ったらああいうリアクションになるんじゃないだろうか。必死さは伝わってくるけど、決して格好よくない。しかもベタベタな液体にまみれて、少しづつ動きが鈍くなっている。服が貼り付いて奴の体のラインがよく分かる。いつもワンピースだから判りにくいが結構プロポーションがいい。
「マイも行くか?」
「やだ……」
「あ、あいつまた下着つけてないな……」
アンは頭まで液体にまみれ、髪が顔に貼り付いている。しかも服が所々透けている。
「とどめ、さすか?」
「そうね、お仕置きね……」
ハァと、マイはため息をつく。僕とマイは顔を見合わせ頷く。
「「剣の王!」」
僕達はハモり、僕は右手、マイは左手を突き出す。僕の前には無数の魔法の収納のポータル、マイの前には2つ顕現する。黄金色に光る小さな魔法陣からギラギラと日の光を反射した剣が現れ僕らの前に飛んで行く。
ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ!
僕達は前に進みながらスライム達を吹き飛ばしていく。
「はうっ!」
ついでに流れ弾がアンを吹っ飛ばす。あいつはドラゴンだからこれくらいは蚊に刺されたようなものだ。
集まった人々は声1つ漏らさない。げっ、勇者力を増やす予定が、魔王力が増えたのでは……
しばらくして動くものは居なくなり、僕らの前には泥濘んだ地面と大量の汚れた剣しかない。
「今日は片付け手伝わないですからねっ!」
アンは僕が出したマントを羽織って町へ走って行った。やり過ぎたな。こりゃ、アンへのご機嫌とりの食費の方がかかりそうだ。
これから剣を回収して洗ってまたポータルに投げ込む事を考えると気が滅入る。格好つけるのも楽じゃないな……