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 絶対打撃

 多少セリフが変わってます。よろしくお願いします。


「武器を持っての戦闘では、絶対当たる攻撃は無い。けど、徒手空拳ならある」


 ピオンの抑揚に乏しい声が荒野に響く。腕を組んで、その猫のような目が僕たちを見渡す。まあ、スキルでは『必中』とか反則なものもあるがそれを除いてだろう。


 今日はデル先生の格闘技講座改め、忍者ピオンの忍者流格闘技講座だ。

 今日はデルは迷宮に潜っていて、予定よりも帰還が遅れて来られないそうだ。急遽代役で忍者ピオンが講師を務めている。


 デルは一撃必殺で大技を好むのに対して、ピオンはちまちま小技を繰り広げ確実に自分優位に立ってとどめを刺すタイプ。


 デルは投げ技が得意で打撃は補助に使う事が多いのに対して、ピオンは打撃主体で連綿と攻撃を続けていくタイプだ。


 それ故ピオンの戦い方は僕達にとって新鮮だ。学ぶ事が多い。



 ピオンは物心ついた時から戦闘訓練を続けて来たという。強くならないと、即、死あるのみだったそうだ。聞くに憚られるので詳しくは聞いてはないけど、その、正確無比な攻撃が凄惨な人生を物語っている。

 僕も決して幸せな人生を歩んで来た訳では無いけど、ピオンはそれを遙かに超えているのだろう。陳腐だけど、ピオンには幸せになって欲しいものだ。


 閑話休題。


 そう言えば、ピオンは不穏と言うかなんと言うか、そこはかとなく素晴らしい事を言っている。


『絶対攻撃』


 放てば必ず当たる技。ロマンだ、漢のロマンだ。

 そんなもの『世界魔法』や『古竜魔法』などのチートじゃあるまいし有る訳がない。むしろ、そんな攻撃、今まで目にした事も耳にした事も無い。


 僕達は顔を見合わせる。


 誰が行くか?


 因みにメンバーはいつメン、僕、マイ、ドラゴンの化身アン、黒マッスルエルフのレリーフと、エロ子供族のパムだ。

 僕達は道着に黒帯、ピオンは黒装束だ。

 さすがに僕らも今は黒帯。無様を晒す訳にはいかないな。


「やっぱりこういう時はザップでしょ」


 マイの一声で、なんというかそうなるとは解っていた。僕はピオンの前に堂々と進む。


「やはり、ザップが来たか。思考加速とかは無しだ」


 ピオンは不敵な笑みを浮かべる。こいつも間違いなくバトルジャンキーだな。可愛いのに残念だ。


「思考加速? なんだそりゃ?」


「知らないのか、じゃ、無意識か……普通にして貰えばいい……」


 僕とピオンは構えて対峙する。


 ピオンがジリジリと近づいてくる。


 間合いに入る。僕のヤクザキックなら当たる距離。けど、ピオンが何するか気になるので待ちに徹する。



 シュ!



 ピオンの右手がぶれた。


 パチン!


 僕の目に何かが当たり咄嗟に目を閉じる。


 ゴスゴスゴスガスッ!


「…………ッ!」


 僕は激しい痛みに襲われ、咄嗟に距離をとる。痛いなんてもんじゃない。痺れる程の傷みで収まる気配がない。ピオンの気配を探る。追撃されたらヤバい。耳を頼りに更に間合いを取る。やっと、目が徐々に見えてくる。


「ヒャッホー! さすがピオン! おれたちにできない事を平然とやってのけるッ そこにシビれる! あこがれるゥ」


 なんかパムがハイテンションで叫んでいる。そんなに僕がボコられたのが嬉しいのか?


河馬かばさいを殴ったみたいだ。人中、仏骨、壇中、水月。私の全力急所4連撃でも倒れないとは。目潰し、金的を抜いたのが敗因か……」


 なんかピオンがぶつぶつ不穏な事呟いている。間違いなく殺しに来やがった。非常識な奴だ。ってもともと暗殺者、それが仕事だったよな。サイとかカバとか言ってたけどあくまでも例えだよな、それでもなんか失礼だな。どうせなら獅子とか虎とかもっと格好いい動物に例えて欲しいものだ。


『河馬の肌をもつ男、ザップ・グッドフェロー』


 あ、猿人間よりはかなりましな気がする。


「ピオン、サイやカバ見た事あるの?」


 マイが突っ込む。それは僕も知りたいな。僕は話だけで見た事が無い動物だ。


「犀、河馬、とても固い。私は動物が好き。デカイ動物見たら、コミュニケーションでとりあえず殴る」


 という事は触れ合った事もあるのか。とりあえず殴るって本当に動物好きなのか?激しい愛情表現だな。こんどアンにドラゴンになってもらうか。


 え、てことはさっきのきっつい打撃は愛情表現? んな訳ないよな。とりあえず考えを放棄する。


「ところで、ピオン、今のは何だ?」


 僕は構えを解きピオンに近づく。


 シュ!


 ピオンが前に出てその手がぶれ、僕の唇にピオンの拳が止まる。軽く唇に拳が触れる。全く反応出来なかった。止められなければやられていた。


「ジャブ……」


 ポッとピオンは顔を赤くする。照れるならするなや。


「ジャブと言うのか?」


 さっきの事は無かった事にしよう。角度的にはマイの死角の筈だ。


「ジャブ、拳闘の技。構えた前の手を真っ直ぐ前に突き出し当たる瞬間に握る。コツは力を抜く事。目を狙うなら手を握らなくてもいい。その方が速い。練習すれば必ず当たるようになる」


 ピオンを真似てみんな練習する。


「簡単ね、鞭みたいなかんじね」


 マイがジャブを放つ度に弾けるような音がする。流石マイ。器用だ。


「ドラゴンジャブジャブ!」


 アンの手の先はぶれて見えない。とっとと風呂でジャブジャブすればいいよ。


「シャアッ! これでどんな女の子のスカートも思いのままっ!」


 パムの身長だとそういう使い方も出来るのか。けど、とっとと猥褻罪で捕まればいいよ。

 あいつも顔が売れてきたから、もはやいたずらっ子のふりした痴漢行為も許されない事だろう。


 僕とレリーフ以外はすぐにマスターした。なんて言うか、その、力を抜くというのが上手くいかない。


「出来ましたっ!」


 レリーフが天に拳を突き上げている。どっかに飾られてる銅像みたいだ。一片の悔い無しって感じの表情だ。


 生意気だ。とうとうあいつも僕を置いて行ったのか……


「おら、ジャブッ!」


 僕はジャブを放ったつもりだ。けど、それを見てピオンがやれやれポーズで首を降る。


 力加減が難しい。


「くっそー、入れるのは得意なんだが、抜くのは苦手だな……」


「……挿入れるの得意、ヌクのは苦手……ザップ、私でよければ……」


 ピオンがポッと赤くなって呟く。なに言ってやがる。


「力、力の話だよ!」


 良かったマイには今の会話聞こえてないな。ピオン、危険な忍者だ。


「おらおらっ!」


 ピオンに背を向けジャブを連打してみるが上手くいかない。


「ザップ、不器用、タコ踊りみたい」


 ピオンが僕の背後からとどめを刺した。


 僕はその場から駆け出して3日程音信不通になった。


 そして、ゴブリン程度なら爆散させる事の出来る必中必殺のジャブを引っ提げて帰還した。

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