喉輪落とし
ガチムチの巨漢ダークエルフのレリーフに向かって、華奢なエルフのデルがスタスタと歩いていく。デルが近づくとその身長差は頭1つ分以上あり、レリーフの広い肩幅のお陰かデルはめっちゃ痩せて見える。
「いきますっ!」
レリーフは気合を入れるとデルに向かって踏み込みその右の豪腕が振るわれる。風を切る音がするが、デルは前に出ながらそれをかわし大男の懐に入り込む。刹那、レリーフの顎がカチ上げられレリーフはのけぞり背中から大地に叩きつけられた。
「『喉輪落とし』、『チョークスラム』と言われる技です。相手が自分より大きい時でも簡単に相手を投げる事ができます」
デルはレリーフの手を取って立ち上がらせる。立ち上がったレリーフの首にデルの手が伸びたと思った瞬間にレリーフはその場でくるりと回転して腹ばいで地に伏せた。
「カチ上げた瞬間に足を刈るとこのように相手を回す事も出来ます」
またデルはレリーフを立ち上がらせると、遠くに走っていく。
「レリーフ、走りながら攻撃して」
2人は走り出して交差する瞬間、デルはレリーフの攻撃をかわし、伸ばした手がレリーフの首を掴んで投げる。前2回は足を掛けて投げたのだが、今回は勢いのお陰で簡単にレリーフが宙を舞う。こいつはいいな。トロールやオーガーなどの群れに突っ込んで蹂躙するのに使えそうだ。
デルがレリーフに手を差し出し立ち上がらせる。そしてお互いに拱手してこちらを向く。それにしてもなんか間違ってる気がする。デルの職業は野伏、レリーフの職業は死霊術士。2人とも後衛職と平気でうそぶいている。んなわけあろかい、ってツッコミが飛んで来そうだ。もう2人とも職業は格闘家でいいと思う。
今日は、デル先生の格闘技講座番外編、護身術講座だ。『小さい女の子がどうやって大男を蹂躙するか』講座だそうだ。
僕は今日は見学で、受講者はマイ、ドラゴンの化身のアン、魔道都市の見た目幼女の導師ジブル、自称2代目最強の荷物持ちのプリンセスのラパン、元大神官のシャリーだ。
「では、解説しますね」
デルはレリーフの前に立つ。
「今回の投げに繋げる前の喉輪攻めには3パターンあります。まずは首を握り普通に呼吸を止めるパターン、次はのとぼとけの下の仏骨という急所に一撃与えるパターン、あとは顎をカチ上げ脳振盪を狙いつつ相手の視界を奪うパターン。相手との身長差があるときは3つ目が使いやすいです。相手の反撃を受けにくいですし。そして、近くの手を引いて踏み込んで相手の後ろから足を刈ると簡単に投げる事が出来ます」
レリーフがコテンと投げられる。それを女の子達がキラキラした目で見ている。シュールだ、なんかシュールだ。
けど、ウズウズする。僕もやり方が解ったのでかけてみたい。こっちを見たラパンと目が合った。
「デル先生、ザップも参加したいみたいですよ」
ラパンが手を上げる。
「ザップさんも参加しますか?」
「え、いいのか?」
デルの言葉に僕は身を乗り出す。
「いいに決まってるじゃないですか」
デルが慈母の笑顔で僕を見る。後のみんなも僕を見る。笑顔だけどみんな目がギラギラしている。
そういう事だとは思ったけど、僕とレリーフは女の子達が気がすむまで投げられ続けた。
喉は痛いけど、少女達にキャッキャ言われながら投げられるのは悪くは無かった。あんまり痛くはないし、投げられる時に掴まれる腕に微妙に何か当たったりして。