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 大鼠狩り

 今日は食後に読まれて下さい。


 僕の名前はラパン・グロー。


 駆け出しの冒険者だ。いつもは町の食堂でウェイトレスをしていて、休みの日は冒険者をしている。兼業冒険者というやつだ。


「やっぱり王都は人が多いわねー」


 僕の頭の上から声がする。妖精のミネアだ。


 僕たちは連休が取れたので今日は町を出て王都に来ている。町は平和で討伐依頼が滅多に無いので、今日はここで依頼を受ける予定だ。

 ワクワクしながら、冒険者ギルドに入り掲示板を目指す。ザップの記憶が頭をよぎり、荷物持ちの仕事でもいっかなと思ったけど、今日の気分は討伐だ。ぶんぶんと思いっきりハンマーを振り回したい気分だ。

 なんか視線を感じる。そっか、ミネアに人間になってもらえば良かった。注目されている。妖精は珍しいからね。

 掲示板を見て、一番報酬の安い討伐依頼を探す。


『下水道の大鼠討伐。一体につき銀貨二枚』


 常駐依頼のようで紙がくたびれている。ギルドの職員さんに詳しい話を聞いて下水道に向かった。


 王都には運河が走っていて、その下流の方に大きな浄化槽があってそこで生活排水を魔道具で浄化して川に流し込んでいる。その浄化槽には地下に掘った下水道から汚水が流れるようになっているのだけど、その下水道には巨大ゴキブリや巨大鼠が発生している。巨大ゴキブリは見た目に反してそこまで害はないので、たまに掃討依頼が出るが、鼠の方は凶暴なのと肉が食べられるので常時討伐依頼が出されているという。巨大鼠と言っても大型犬くらいの大きさしかなく、駆け出しの冒険者にとっては格好の標的だ。飢えてたら肉を食べて皮だけを売る事も出来るので、採取依頼とかで少し武装が整った冒険者達は鼠狩りに精を出すという。

 ただ気をつけるべき事は、鼠に噛まれたら変な病気にかかる可能性があるので消毒薬は必須だそうだ。まあ、僕の収納にはエリクサーが常備してあるので問題無い。

 下水道には光源が無いそうなので松明かランタンを買って行く事を勧められたけど、僕には魔法がある。


「じ、地獄……」


 下水道に入った僕は絶句した。


 下水道は真ん中に水路が流れていてそれを通路が挟んでいる。水路と言ってもなんか濁ったドロドロした水が流れていて、とにかく臭い。トイレの臭いに死んだ動物の腐ったような臭いがまじっている。


「だぱん、かへりましょうよ、たへられなひわ」


 ミネアは鼻をつまんでいる。


「いや、僕は冒険者だ。せめて一匹くらいは狩ってやる!」


 僕は収納からショートスピアを出す。足場が狭いのでハンマーは邪魔になる。僕は意を決し足を踏み出す。


 僕は魔法で照らした天井を見る。そこにはびっしりと小さなゴキブリ達が蠢いている。見なかった事にする。


 カササッ!


 足下を子鼠が数匹駆け抜けていく。


 これも無かった事にする。


 僕は何をしてるんだろう。生暖かいと言うより暑い中、くっさい下水道で最低な環境に立たされている。


 青い空。透き通る海。冷たいトロピカルジュース。小麦色のマッチョメンと、際どい水着を着たお姉さんたち。


 一瞬頭の中が臨海都市シートルにトリップしていた。


 止めた、止めた。報酬の高い依頼を受けてシートルに行こう。せっかくの休みに何で有り得なくらいに最大級のストレスを自ら感じないといけないのだろうか。


 ぴちゃ、ぴちゃっ。


 もう帰ろうと思ったけど、下水道の緩やかに曲がった角の方から音がする。とりあえず行ってみる。


「ぎゃあええええええーっ!」


 それを見たとたん、僕の口からプリンセスにふさわしく無い声が溢れ出た。


「オロロロロロ……」


 頭の上のミネアから変な声がする。頭、生暖かいよ……


 食べている……


 食べている……


 でっかい鼠がでっかいゴキブリを食べている。


 ぴちゃ、ぴちゃ、コリッ、コリコリッ!


 何か変な音してるよ……


 僕の足は竦んで動かない。集中出来なくて魔法も紡げない。


「キキッ!」


 ねずみさん、ぼくをみてるよ……


「すーっ」 


 僕は息を必死に吸う。


 ゴウッ!!


 吐き出した息は爆炎となり、一瞬で鼠とゴキブリを黒こげにした。


 それからも数回エンカウントして、収納に焦げた鼠を入れて行った。買い取り額は半額だったけど、ギルドの職員さんはウェルダンでまだ食べられますって言っていた。すげー、僕には無理だ。あいつらゴキブリ食べてたよ……


『お魚って虫とか食べてるから、あたし内臓無理ーっ』


 シャリーちゃんの言葉を思い出した……







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