荷物持ちと忍者
「せっかくですから、ザップさんもピオンと戦ってみてはいかがですか?」
「ええーっ!」
デルが変な事を言い出す。なんて言うか、平和に勝てるビジョンが見えない。立ち技主体で行くと手加減が難しいし女の子を殴る蹴るするのは僕の流儀に反するし、投げとか主体で行くと密着したり、なんか事故ったりしてマイに折檻される未来しか見えない。戦った時点で何をやってもドツボな気がする。はずれしかないクジを引くようなものだ。
「私、ザップとも戦ってみたい。これでも少しは強くなった。胸をかせ」
ピオンが僕の前に来る。おい、今、また軽く唇なめたよな?しかも、胸をかせって、なんでこいつ僕にだけは口調がなんかぞんざいなんだろうか。
「嫌だ。マイやアンと戦え。お前にはまだ早い」
僕はピオンに背を向ける。
「あたしたち、ピオンとは訓練の時に何回も戦ってるから。ザップと戦うのを見てみたいわ」
「ご主人様、合法セクハラのチャンスですよ。ピオンって着痩せするのかメッチャ触り心地いいんですよ。モチモチぷるぷるですよ。モチモチぷるぷる」
「マイがそう言うなら、しょうがないが、アンが変な事言うから、それが目的みたいじゃないか、そこん所どうにかしてくれないと俺は嫌だぞ」
「わかったわ、あくまでも戦い。そこで起こった事は意図的じゃない限り、戦闘の産物という事で大目にみるわ。なんかフラグみたいな気もするけど」
マイの言質もとったので、何をしてもペナルティはないはずだ。
「ザップさん、もちもちぷるぷるですよー」
なんか変な事言ってるパムに拳骨をくれてやり、僕はピオンの前に行く。
「それでは、ルールは噛みつき目つぶし金的ありで、大地に足の裏以外をついた方が負けです」
デルがルールを宣言する。
「おい、ちょっとまて、もっと制限しろよ!」
ピオンは元忍者の暗殺者。ほぼ何でもありだったら、執拗に股間を狙われる未来しか見えない。
「ザップさん、ヘタレですね……じゃあ、噛みつき目つぶし無しで」
デルがオーバーアクションで肩をすくめる。
「金的、金的もいれろ!」
「ザップさん、解りました。金的も無しでオッケーです。攻撃はしないけど、たまたま触れる分にはオッケーですよね。けど、金的金的連呼しないで下さい。私だって女の子なのですから」
ピオンは顔を赤らめて僕から目を逸らす。僕よりもピオンのセリフの方が数段下品だった気もするが、わざとなのか?気付いてないのか?もしかしてみんなグルで茶番なんじゃ?そんな疑問が頭を掠める。
「それでは始め!」
デルの開始の声を耳に僕は飛びしさる。そして、やはり僕は攻撃あるのみ。加減はしてるが最高速の中段突きを放つ。狙うのはお腹。これが最適解だ。一撃で仕留める。
「空蝉の術!」
ピオンの涼しげな声が響く。
ファサッ。
僕の必殺の中段突きが貫いたのはピオンの黒装束のみだ。おお、本で読んだ事がある。抜け殻を残して逃げる忍者の得意技だ。
僕の前を丸まって後方宙返りをしながらピオンが着地する。
肌色?
全裸?
「キャーーーーッ!」
ピオンは胸を両手で隠し、膝を合わせてしゃがみ込む。
見えた!
一瞬だけど色々見えた!
「ザップさんの勝利!」
デルが手を上げる。
そのよこには両手に女性物の下着を持ち満面な笑みでヒラヒラさせているパムがいる。さっきピオンを治療した時に僕の貸した収納の能力を使えるタブレットで悪さしたのだろう。
そのあと、パムには女性達による激しい制裁が加えられた。今日はとばっちりも無くとてもいい日だった。