巨人
「メテオ・ストライク!」
オリバン1の魔法使いガンダゴンの声が響き渡る。最強と言われる魔法『メテオ・ストライク』。その魔法が封じ込められたスクロールが発動された。空に現れた燃え盛る隕石が巨人に命中する。これで駄目ならもう打つ手が無い。
ドゴゴゴゴゴゴーッ!
爆炎が弾け砂煙が巻き起こる。巨人の動きが止まったのが遠目にも解る。
「やったのか……」
誰かが呟く。
砂煙が晴れ少しづつ視界が開けてくる。
大きく窪んだ大地の中央に黒い塊。
「オオオオオオーッ」
騎士団から歓声が上がる。いつの間にか固く握りしめた拳の力を抜く。まるで水で手を洗ったかのように汗で手はヌルヌルだ。
「確認に出る。隊列を崩すな!」
私は剣を抜き前に出る。危険な事を率先してこその団長だ。
「だ、団長……」
団員の1人が震える声を上げ巨人の方を指差す。
巨人は立ち上がっていた。巨大な鉄の塊の様な剣と盾を手にこちらを睥睨している。所々皮膚は炭と化しているが、それが剥げ落ち桃色の新しい皮膚がその下から見える。そして巨人は我々の方に向かって歩き始めた。
もう、打つ手は無い。バリスタ、カタパルト、最上級の魔法、全て試した。あとは少しでも民間人が逃げる時間を稼ぐしかない。時間が経てば東方諸国連合の他国からの援軍が来てくれるだろう。傭兵都市オリバンの騎士団としての責務を果たすとするか……
「騎士団の精鋭たちよ。我らの大切なものを守るため今こそ力を示す時。私に続け!」
私は剣で天を突く。
「「ウオオオオオオーッ!」」
大地を揺るがすような気合が騎士達から放たれる。
私は迫り来る巨人を見る。
その前に小さな影が見える。なんだいつの間に。巨人が大きいから小さく見えるが、人だろう。1人で巨人の前に出るとは、かなりの阿呆なのか?売名行為か?
「逃げ……」
「シャーーッ!」
私は逃げろと言おうとしたが、みなまで声を発するまえにその人物の気合にかき消される。
何なんだ?その声を聞いただけで身が竦む。まるでコロシアムで王者と対峙した時みたいだ。巨人も足を止めた。
「出でよマウント・スレイヤー!」
ちっぽけな男が叫ぶ。その手に大剣が現れる。何だあれは?大剣、確かに大剣だがその長さが尋常じゃない。裕に巨人の背丈を超えている。
「ウオオオオオオーッ!」
その人物は気合を吐きながら、その大剣を唐竹割りのように振り下ろす。振り下ろすというよりも、ただ倒しているようにしか見えない。それを巨人は安々と盾で受け止める。まあ当然だな。あんなものを扱える人間などいるはずがない。
ガコン!
「…………っ!」
私は、驚愕で目を見開く。巨人は武器を落とし、両手で盾を支える。なんだ?何が起こっている?
「ば、ばかな……」
誰かが口を開く。よく見ると化け物大剣を持つ人物は片手で剣を支えている。それを巨人が震えながら両手で盾で押さえている。なんの冗談だ?私は夢を見てるのか?
「俺の名はザップ!俺の名を呼べーーーっ!」
その人物、ザップが叫ぶ。ザップ、あのザップなのか?
「ザップ!」
誰かが叫ぶ。
「ザップ」
「ザップ」
「「ザップ」」
ザップが空いている片手で煽る。
「「「ザップ」」」
「「「ザップ」」」
「「「ザップ」」」
ザップコールが大きくなる。なんだ、まるで人気剣闘士の試合を見てるようだ。先ほどの恐怖が消え胸が熱くなる。いつの間にか私も声を高らかに叫んでいた。
「「「ザップーーー!」」」
足踏みも交えザップコールが大地を揺るがす。
ザップは剣を両手で持つ。巨人は片足をつき、両足をつき、盾がひしゃげていく。
バキュ!ゴリュ!
巨人の体から変な音がする。
「絶剣、山潰し!!」
ザップが叫ぶ。
ザシュッ!
一瞬だった。一瞬で巨人の体は2つに別れゆっくりと大地に倒れていく。
「ウオーーーーッ!」
ザップが化け物大剣で天を突く。
「「「ザップ!」」」
「「「ザップ!」」」
「「「ザップ!」」」
「大剣巨棍主義」
私の口から言葉が漏れる。一昔前にコロシアムで流行った戦い方だ。巨大武器を手に攻撃を耐えて耐えて耐えまくって、巨大武器の一撃で勝負を決する。まさかそれを体現する者がいたとは。そのロマンに体が熱くなる。
それからしばらくザップコールが大地を震わし、そのまま街に凱旋し、最高の宴が始まった。