うんぽほう
「うんぽほう?なんだそれは?」
僕はアンジュに問いかける。
『うんぽほう』?『うんぽ砲』なんか手から汚いものでも弾け出す必殺技か?
今僕はスーパーデバフがかかった、人が叫んでいるような染みがついた気持ち悪い木剣を手に、剣術を習った事があるという少女冒険者のアンジュに稽古をつけて貰っている。気持ち悪い剣で弱体化することにより身体能力はアンジュと同等になり、やっとまともに打ち合いが出来る。僕の剛力と高いレベルには困ったもんだ。
とは言っても同等の力になったら、情けない事この上ない。元々僕の戦い方は力押しのみだ。全くアンジュに歯が立たない。まあ、今まで剣術なんてしたことないし、実戦が僕の師だった訳で当然と言えば当然だけど、なんか釈然としない。
僕の攻撃をアンジュは受けた瞬間、木刀で殴られる。アンジュの攻撃を受けた瞬間、次の攻撃で殴られる。フェイントに上手くひっかかって殴られる。
アンジュは赤いショートヘアを靡かせながら滑らかな動きでボクを打ち据え続ける。時には優雅に、時には激しく、まるで踊るかのように剣を振るう。それに対して僕はドタドタ、カクカク、初めてダンスを踊って緊張しまくってる人みたいだ。まぁ、当然だけど僕はダンスは苦手だ。というか人前で踊った事など子供の時くらいなもんだ。
その無様な僕を見て、ドラゴンの化身アンがニタニタしている。彼女からして絶対王者である僕が滅多打ちにされてるのはそれだけで溜飲を下げるものなのだろう。コロス。
マイが暖かい目で見守っていてくれるのだが、若干口元がピクピクしてる。我慢するよりいっその事爆笑してくれた方がまだましだ。
もっと強くなってやる!
そう思い、力を込めれば込める程、動きがぎこちなくなり、より無様を晒している。
「ザップ兄さん、まずは『うんぽほう』からですね」
アンジュは剣を下ろし苦笑いする。
「うんぽほう、なんだそれは?」
そして僕はアンジュに問いかけた。
「運歩法、歩みを運ぶ方法、要は足運び、歩き方です。私達は幼い時習い始めにまずはこれを徹底的に叩き込まれました。まず、兄さんは一撃一撃に力を込める戦い方をしてきたおかげで構えた時の足の開きががに股で広すぎるんですよ。これは剣術では致命的です。連撃や、追撃などの連続した動きに繋げられないのですよ」
なんか、意図的では無いと思うけど、少しディス臭がする。
「私の習った流派では前に出る時に真っ直ぐでは無く斜め前に出ます。カウンターを防ぐ為と、相手が攻撃しにくい所に移動するためです。相手が前に出している足の外側に入っていくような形です」
そう言ってアンジュは僕の左の方にスッと移動する。僕は左足を前に構えているのだが、そっちに移動されると体を動かさないと攻撃できない。
そっか、たったそれだけの事で僕のアクション数が増え攻撃が遅くなってたのか!
「千鳥足って言いまして、足を寄せる斜め前に出す、後ろ足を引きつける。兄さんは足の裏引きつけが甘いから次の動きに繋がらないんです。また斜め前に出して引きつける」
アンジュがジグザグに前に進む。そっか足が開いてたから次の一歩が遅れていたのか。
「下がる時も一緒です。真後ろではなく斜め後ろに下がります」
今度はさっきの逆でジグザグに後ろに進む。
「ありがとう」
僕は礼を言うと、アンジュの歩き方を真似た。動く度に足を引きつける。それだけで次に動きやすくなる。
それからしばらく、毎日数時間『運歩法』の練習をし続けた。マイとアンも僕を真似て練習してた。無意識に出来るようになった時、僕は数段動きが早くなっていた。基礎って大事なんだな。