荷物持ち少女(後)
「俺は戦士で、そこのガルボは狩人、クーは神官だ」
俺たちは町を出た所のちょうどいい石に腰掛けて作戦会議だ。戦士なんて格好つけたが、俺の所持品は自分で削り出した棍棒のみ。お金が無いから何も買えない。稼がないといけない。ちまちまとした仕事だと食費だけで消えちまう。それで、初めての冒険に見入りがいいゴブリン退治を選んだ。あいつらの右耳1つで銀貨5枚も貰える。
「僕は荷物持ち。魔法の収納に物を保存出来る。あと魔法も使えるよ」
ラパンはそう言うと、何もない所から小さな杖を取り出した。魔法使いとかが使ってるやつだ。俺達は目を見開いた。魔法の収納初めて見た。さっきまでラパンは自分の事を私って言ってたけど、いつの間にか僕に変わっている。どっからどう見ても美少女なのに変な感じだ。ちなみに纏わり付いていた妖精はどっかに行ったみたいだ。ゴブリンが怖いのだろう。
「じゃあ、ゴブリンに遭遇したら、ノエルが特攻して俺がスリングで牽制する。そのあと俺も前線に出てラパンちゃんは俺達が危なくなったら魔法で援護してくれ。クーは俺達が怪我したら回復を頼む」
ガルボがみんなに作戦を伝える。依頼書にはゴブリンは四匹って書いてあったから、これで何とかなるはずだ。
「あたしの奇跡は2回しか使えないからラパンちゃん怪我しないでね」
「おい、その言い方だと俺達がゴブリン相手に怪我するみたいじゃねーか」
クーに俺は抗議する。畑を耕して鍛えた俺の振り下ろしでゴブリンなら無傷でやれるはずだ。
「うん、間違いなく怪我すると思うわ。だってノエルいつでもみんなを庇ってくれるから…」
クーはそう言うとプイッと顔を背ける。そう言われると何も言えない。俺達はそのあとしばらく話してゴブリンが出たという村に向かった。
村で話を聞くと、ゴブリンが夜中作物を荒らしているのを村の若者で追っ払って、ゴブリン達は山の方に逃げて行ったそうだ。追撃したいけど、もし他にゴブリンがいた時のために村の警備を固める事にして、人員不足で依頼したそうだ。山には洞穴等は無く、夜露を防げるとしたら放置されている炭焼き小屋くらいだとの事だ。
俺達は急いでそこに向かう。町の仮設ギルドは夕方の五時までは依頼完了報告を受け付けてるからだ。それを過ぎると明日になる。そうなると家に食べ物を買って帰れない。
小屋に行ってみると、そこにゴブリンがいた。扉の所で一匹壁を背に座り込んでうつらうつらとしている。間違いなく寝てる。
「俺に任せろ」
ガルボがスリングから石を放つ。それはものの見事にゴブリンの頭に命中する。動かない。やったのか?
「クーとラパンちゃんは木陰に隠れてて、俺が確認してそのあと扉を開けて出て来た奴を攻撃する。ガルボ、援護してくれ」
俺は棍棒を構えゴブリンに近づきその頭を強打する。手に気持ちの
悪い感触が残る。多分死んでたとは思うが初めて生き物を殴りつけ事に体が震える。けど、やるしかない。生きて行くためだ。
俺は扉を思いっきり蹴りつける。蹴り破るつもりだったけど、大きな音がしただけだ。これで中に居るヤツは出て来るはずだ。扉の横で棍棒を振り上げ待ち受ける。心臓はバクバク言って、手は汗でヌルヌルだ。今まで鍬を振り続けた自分を信じる。
「ギャギャギャ」
ボクッ!
扉を開けて出て来た奴に渾身の一撃を与える。頭に命中し、潰れる嫌な感触が。そいつはそのまま崩れおちる。
ゴツッ!
次に出て来た奴の頭に石つぶてが命中する。そいつはフラフラと倒れ込む。それを乗り越えてもう一匹が出て来る。俺は棍棒を振り下ろすがそいつは器用に横に跳んでかわす。
「アアアアーッ!」
奇声を上げながガルボが走って来て手にした棒でゴブリンを突こうとする。それも躱されるが、俺とガルボでゴブリンを挟んでいる。俺は棍棒を振り上げ振り下ろすが、また躱される。ガルボの横薙ぎをゴブリンは持ってる錆びた剣で受ける。その動きが止まった瞬間、俺の棍棒がゴブリンの肩を打ち据える。それからは、俺達の蹂躙劇だった。
「はぁ、はぁ」
俺は肩で息をつく。ガルボがスリングを当てた奴にも確実にとどめを刺した。俺達の勝利だ。
「やった、やったわね!」
クーが俺に走ってくる。
「ノエル!」
クーが立ち止まり俺の後ろを指差す。
振り返ると、小屋から何かがゆっくりと出て来る。
手に丸太を抱えた俺達より頭1つ分以上大きいゴブリン。
「うわっ、ホブだ!ホブゴブリンだ!」
ガルボが見るなり駆け出す。その膝が笑っている。数歩進んで足をもつれさせて大地を滑る。
「逃げろっ!」
ガルボが叫ぶ。そうしたいのはやまやまだがガルボを置いていけない。ホブゴブリンがガルボに近づき丸太を振り上げる。
「援護してくれ」
俺は走り出し、ガルボの前に立つ。棍棒の端と端を持ち丸太を受けようとする。垂直じゃなく斜めに受けたら少しは逸らせるはず。
バキッ!
丸太に触れたとたん棍棒はへし折れる。俺は死を覚悟して目を閉じる。
「シールド!ラパンは甘いんだから……」
目の前で丸太が止まっている。そして俺の顔の横には妖精が飛んでいる。何が起こったんだ?
俺の横に何かが現れた。ラパンだ。いつの間に?
ドゴン!
大きな音をたてて、ホブゴブリンが爆発したかの様に見えた。ラパンの手に巨大なハンマーが握られていて、それがホブゴブリンを爆砕させたというのに気がつくのにしばらくの時間がかかった。
「「「ええええええーっ!」」」
俺達の叫び声が響き渡った。
「「「ありがとう」」」
俺達はラパンと握手をして別れを告げた。報酬はきっちり4分割した。ホブゴブリンの分は要らないって言ったけど、ラパンは頑として引かなかった。
正直、ラパンの強さにはドン引きしたが、助かった。彼女がいなかったら間違いなく命を散らしていた事だろう。
「また、冒険、誘ってね」
ラパンは微笑むと去って行った。絶対次に会ったら誘おう。
あの時、勇気を出して誘って良かった。可愛い女の子をみたら絶対声をかけろという、じっちゃんの言葉に命を救われた。
可愛いは正義って言葉を聞いた事があるが、それは真実だという事を学んだ。
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