宝箱
私の名前はピオン。忍者だ。忍者とは東方をルーツとする諜報任務や暗殺に長けた者で、迷宮においては戦闘をこなし索敵や敵の感知に長け、しかも罠の感知や解除も出来るという、盗賊の上位互換の様な職業だ。しかも忍術という独特の技術を持ち、戦闘においては、気配を消して必殺の一撃を相手に与えるのを得意とする。もっとも戦闘能力が高い分、罠に関するスキルは盗賊に多少劣ると言われているが。それを先日致命的な罠を発動させる事で証明してしまったばかりなので、パーティー内における信頼の回復が今の急務だ。
私は今、ザップ・グッドフェローの率いるパーティーの一員として、臨海都市シートルの南にある悪名高い迷宮、海淵の迷宮に来ている。今はそこの地下2層で、半魚人のようなモンスターの一団をザップ達が倒した所だ。そしてそこに現れた宝箱。私の出番だな。
「ご主人様、どうもここは古竜シルメイスの作った迷宮だと思われます。彼女は人族嫌いで罠とかにかけるのがとっても大好きだったのを覚えてます」
ドラゴンのアンさんが口を開く。要は罠がかかってそうだから、宝箱は諦めようとほのめかしているのだろう。私が不甲斐ないばかりに……
「そうなのか」
ザップが宝箱を見つめる。
「ザップ、魔法の罠はかかってないわ」
私よりどっから見ても年下に見える、魔法使いのジブルが宝箱に近づく。ああ見えても彼女は私の年上、大人になっても子供のままのホップという種族だそうだ。ここに来て始めて会った種族だ。
前回、魔法罠にやられたので、魔力感知の魔法で調べたのだろう。いかんな、それは私の仕事なのに……
私は無言で前に出る。こういう時には言葉は要らない。行動で示すのみだ。
「やめとくか?」
ザップが私を見る。
「調べさせてください」
私はザップの目を見る。ザップはゆっくり頷く。
「ピオン、気を付けてね」
マイ姉様が私を心配そうに見ている。
「はい、任せて下さい」
私は内心を押し隠し、堂々と進む。頑張らねば。ここでしくじったらまた地獄の特訓に逆戻りだろう。それか、お役御免で二度と冒険に連れていって貰えなくなるかもしれない。それは嫌だ。私を救ってくれたザップ達に少しでも恩返しをしたい。
私はまずは宝箱を眺める。大きさはだいたい50センチ位。もし罠がかかっていたとしてもそこまで大きなギミックはついていないだろう。材質は木の淵を金属で補強したものだ。基本的に迷宮でドロップする宝箱は材質で中身の貴重さと罠のレベルが変わってくる。木は最低ランクだ。大した物は入っていないかもしれない。罠がかかっているリスクを考えると放置がベストだろう。だが、今回の目的は信頼回復。私の能力の証明だ。
次は触れないようにして匂いを嗅ぐ。爆薬や毒系の臭いはしない。私は幼い頃からその手の匂いは腐る程嗅いできた。もしこれを違えたら問答無用で自分の首を刎ねる事だろう。
魔法系なし、毒、爆発なし。あとドロップの宝箱なので、何か他の罠と連動してる事も無い。例えば宝箱を開けたら天井が落ちてくるとかは元々設置されてる宝箱でないとあり得ない。
もし、罠がかかっているなら、あとは警報かバネ矢くらいのものだろう。どっちも開けないと作動しないものだ。私は箱を軽く手で叩く。警報系だったら振動を与えると少しそのベルとかの音がするからだ。宝箱の蝶番の方に手を触れたまま反対から軽く叩く。ビンの触れる音、中身はポーション、やはりそれ以外の物も入っている。間違いない。バネ矢の罠だ。少しづつ開けてギミックのスイッチを押さえて無効化出来るけどスマートじゃない。私は振り返る。
「罠がかかってます」
みんなの目が私に集まる。
「中身はポーションで、罠はバネ矢です。開けたら矢が飛んできます。毒はついてないです。解除よりも誰も居ない所に向けて発動したほうが早いので実行してもよろしいですか?」
私は変な汗をかく。ここまで断言して外れたら、もう信頼は取り戻せない。けど、私は自分自身を信じる。自分の人生で積み上げてきたものを。
ザップ達は目を見合わせる。
「ああ頼む」
ザップの目には微塵の不安もないように見える。私を信じてくれている。
カチリッ!
ドガッ!
私は箱を誰も居ない所に向けて開ける。開けたら矢が飛び出し、壁を穿った。アブねー、ただのバネ矢なのに威力がハンパない。くらったら間違い無く即死している。どんなバネつかってるんだよ。
私は宝箱の中身をみんなに見せる。中身は金色と銀色のポーションだった。スキルポーションと能力上昇のポーションだ。生まれて始めて見た。ハイリスク、ハイリターン。私はあと少しで箱を落としそうになるほど動揺した。
アンさんとジブルが私に抱きついてくる。マイ姉様も頭を撫でてくれる。ザップはそれを優しい目で見ている。どうやら私はこのパーティーの一員になれたようだ。