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 ハードロック


「ザップさん、諦めましょう。無理ですって」


 私は扉をハンマーで殴り続けるザップに声をかける。


「本当だな。破壊出来ないみたいだな」


 ザップは手で汗を拭い、その場に腰掛ける。


「大人しく助けを待ちましょう」


 私はポーチから水筒を出しザップに差し出す。私も喉が渇いているが我慢だ。私のミスでこうなったから、ザップには少しでも長く生きて貰わないと。それにザップには借りしかないからな。


 私の名前はピオン、忍者だ。ザップに命を助けられ、マイとアンに鍛えられ、今は海淵の迷宮に来ている。

 臨海都市シートルの南の海の中央にある洞窟をくぐり抜けここに来た。パーティーメンバーは、私とザップと獣人のマイさん、ドラゴンのアンさん、そして子供族ホップの魔法使いのジブルさんだ。

 難なく地下1層を踏破し、地下2層で見つけた宝物庫にあった宝箱の罠を察知出来ずに引っかかり、しかもそれは転移罠テレポーター。魔方陣に吸いこまれ、私とザップは岩に囲まれた小部屋に転移させられた。油断していた。物理罠が無いのを確認しまさか魔道罠がこんな浅層に設置されてるとは思わなかった。普通、転移罠なんかがあるのは深層以下だ。

 魔法感知センス・マジックを怠った、私の慢心によるミスだ。

 しかも転移先の小部屋は封印の魔方陣の配置された部屋だった。魔法もスキルも使えない。けど、封印の魔方陣は無限じゃない。ザップ程の化け物を封じ込めてたら少しづつ摩耗していく。けど、効果が消えるのに何日かかるかわからない。

 1つ扉があるのだが、間違いなく『ハードロック』の魔法がかかっている。材質が石なのに私の忍者刀で削っても傷さえつかない。『ハードロック』、扉に魔法の鍵をかけるだけでなく扉を壊れない物質に変える失われた魔法ロスト・マジックだ。

 私は、状況を説明するが、多分頭の中も筋肉がぎっしり詰まってるザップは扉やその周りの壁をハンマーで叩き続けている。


「ザップさん、パーティーの誰かが助けてくれるのを待ちましょう」


 それも望みは薄いけど、封印が解けるまでザップには体力を少しでも温存して欲しいものだ。ザップのスキルが復活したらここからは容易に抜け出す事が出来るはず。


「助けはあてにしない。仲間を信じて無い訳ではないが、自力でなんとかしないとな」


 ザップは立ち上がると、またハンマーを振るい始めた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ちょうど一日くらいたっただろうか。私達はしばらく睡眠を取り、ザップはまた壁を叩き続けている。ザップが疲れて座り込んだのを見計らう。私はザップの前で水筒の水を飲んだふりをして、ザップに渡す。唾液で喉を潤して掠れないように声を紡ぐ。


「ザップ、私を食べて」


 ぶっ!


 ザップは口に含んだ水を吐きそうになり必死に呑み込む。みるみるその顔が赤くなる。


「そっちの意味でも食べて欲しいけど、それよりも生き延びて。魔方陣の光からして封印はあと10日くらいで解けるわ。私はもってあと2日。死ぬ前に自分で首を刎ねるわ。私の血を飲んで食べて生き残ってね」


「何馬鹿な事言ってんだ?自殺禁止って言っただろ」


 ザップは立ち上がると、ハンマーを両手で握りしめその場で回り始める。ザップの手から白い光と黒い霧が出始める。


「ウオオオオオオオーッ!」


 ザップは回転しながら扉に向かい飛び跳ねハンマーを振り下ろす。


 ズズズズズーーーン!


 重い音と共に扉とその周りの石壁が崩れ向こう側に倒れ込む。


「行くぞ」 


 ザップが手を差し伸べてくる。その手を掴むが、私は脱水で歩けない。


 ザップは私に水筒を渡すと軽く私を抱きかかえる。


「もう、飲んだふりしなくていいぞ」


 水を飲んだ私は安心のせいか意識を手放した。



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