妹は妖精(後)
「にいちゃー!」
妹が叫ぶ。答えようとするが声が出ない。
背中に重みが加わる。踏まれてるのか?
「ついてるな、その娘も高く売れそうだ。捕まえろ」
背中の上から声がする。
「ティタ! 逃げろ!」
僕は声を張る。
「にいちゃ!」
駆け寄って来ようとする妹を1人の男が捕まえる。立ち上がろうとする僕は何度も何度も踏みつけられる。
「にいちゃ!」
妹の泣き声が聞こえる。顔を上げると、妹と目が合う。その瞬間、妹の姿が霞のように消え去り、服が床に落ちる。
「ティタ……」
僕はそこで苦痛で意識を手放した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
気が付くと、僕は手足を縛られて床に転がっていた。なんとか身を起こし見渡すと、前には、灯りの下3人の男が大の字で寝息をあげている。とても酒臭い。僕らのご飯を摘まみに酒盛りをしてたみたいだ。大切な思い出を踏みにじられたみたいで、とても気分が悪い。
妹はどうなったんだろうか?
ここにはいない。やっぱり消えてしまったのは夢ではなかったのだろう。どっか遠くへ行ってしまったのか?
それとも、実は妹は妖精で妖精の国に帰ったのかもしれない。
何にしてもここに居ないって事は、妹は安全だろう。
僕はどうなるのか?
収納持ちって言葉と縛られてる事からして、どっかに奴隷として売られるのだろう。オババのいう事をしっかり聞いて、もっと慎重に魔法の収納を使うべきだった。けど、収納が必要なら死ぬ事は無いだろう。妹が無事ならそれでいいや……
僕は痛む体を横たえて、考える事を放棄した。今だから言えるが、収納の力を使ったらすぐに簡単に逃げ出せたと思う。
ただ男達の獣の唸りのような寝息だけが聞こえる中、どれだけの時間がたったのだろうか……
『にいちゃ、にいちゃ』
風の音のように微かな声。
目を閉じた僕の頬に何か冷たいものが触れる。
「ティタ? ティタなのか?」
『しーっ。まだ声は出さないで』
燭台の灯りが落ちた闇の中、目の前に微かに光っているティタが!
一糸纏わず立っている。神話や童話で読んだ妖精みたいだ。その姿は透けて後ろが見えている。そうか、やっぱり妖精のだったのか。
『にいちゃ、驚かないでね』
ティタが僕の体に触れると、荒縄の戒めが解ける。いや、縄を含め服も全て床に落ちた。ティタに手を取ってもらい立ち上がる。僕の体も淡く光って透けている。もしかしたら夢を見てるのかと思ったが、体の痛みがそれを否定している。
『にいちゃ、服、収納に入れてね、今、ティタ達は多分誰からも見えないよ。ここから逃げるけど必要な物は持ってって』
僕は訳が解らないまま、言われた通りにする。妹と手をつないで、男達に近づくが
寝息をたてたままだ。手に触れる全ての物は素通りするが、収納には入れる事が出来る。テーブルの上にあった僕達のものではない革袋と男達の武器も収納に入れる。一通り家財一式を収納に入れて、僕達は手をつなぎ歩き出す。
星明かりの下、仄かに光る妹と手をつなぎ、くたびれた街道を歩いて行く。ひんやりとした手が心地よい。隣には仄かに光る一糸纏わぬ妹がいる。僕も裸だ。夢の中を歩いているみたいだ。
「にいちゃ、服を出して」
傍らの岩に服を置く。妹が手を離すと僕の体が元に戻る。
「こっち見ないでね」
僕と妹は服を着る。着替え終わったら、妹は地べたに座っている。こんなに歩いたのは始めてだろう。
「あれ、なんなんだ?」
妹を負ぶった背中を意識しないようにして口を開く。
「わかんない。グッドフェローって言葉が聞こえた……」
しばらくして背中から規則正しい寝息が聞こえ始めた。
どういう事なのか解らなかったが、僕はティタが妖精の生まれ変わりだとその時感じた。
僕が男達からせしめたのは、武器と結構な金額のお金だった。そのお金を元に僕達は国境を越え帝都に向かった。
結局、妹の引き起こした事は何なのかその時はわからなかったけど、僕はスキルの事は隠して生活を送っていった。
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