木葉落とし
「今日は先日の『指取り』から派生したような技の『木葉落とし』というのを練習しようと思います」
デル先生の格闘技講座イン・ザ・ビーチの2日目だ。僕達は今、臨海都市シートルに来ているのだが、ここに来るためのワープポータルの使用料はかなりの金額なので、一泊二日の小旅行兼、王都で高価で売れる巨大海鮮達を捕獲に来ている。とは言っても主目的はビーチでの海水浴ではあるのだが。
僕は今日はボクサータイプの水着を着ている。何というか前回はトランクスだったのだが、今回は股間がこんもりしているのが丸わかりなので少し恥ずかしい。けど、隣で食い込んでかつこんもりのブーメランパンツの黒マッスルのレリーフに比べたら全然可愛いものだろう。奴は正直視界に入れたく無い。奴は誰かの視線を感じると、白い歯を陽光で光らせ、嬉しそうにポージングして大胸筋を動かしやがる。どうも視線を送る者の半分以上がSAN値を減らしているのを意識してないらしい。
あとパムはブリーフだ。黒いのを穿いているけど、白が似合うと思う。そうしたら、うんことかを棒でつついて喜んでる頭のよろしくない悪ガキに見えると思う。
それに比べ女性陣は華やか極まりない。
マイは今日はシャツを羽織って、真っ赤であまり装飾が無いのを着ている。けど、引き締まった体に形の良い胸、あとせわしなく動く猫耳。すれ違う者が男女を問わず振り返る彼女自身がどんな装飾よりも目を引いている。振り返る者を見るのたびに、なにかに勝ったような優越感を感じる。まぁ見られているのはマイなんだけど。
ドラゴンの化身アンは背中にドラゴンの刺繍が入った黒いワンピースタイプの水着だ。本人曰くチョイ悪らしいけど、その可愛らしい容姿のおかげで、悪要素は完全に中和されている。もっとも頭悪そうに見えるという点では悪ではあるが。
デル先生は、デニムのチューブトップにジッパーのついたデニムのパンツだ。パンツもブラもジッパーがついててギリギリまで下げてあるのが正直エロい。そういう作りなのだろうけど、上も下も動けばずれそうな所がドキドキする。
そんなこんなでシートルの芋洗いビーチを練り歩いたあと、僕達の化け物ウヨウヨなお気に入りのビーチにやって来た。
「では、誰か前に出て下さい」
デルが口を開く。けど、この台詞は訳すると、『今から痛い事するからザップ前に出ろ』だ。
未だかつてこの言葉の後に僕以外が前に出た事がない。
当然僕は前に出るが、今日はもしかしたらご褒美があるかもしれない。あんな水着で激しく動いたら間違いなく間違いが起きるはず!
前に出た僕の左手にデルの右手が伸びてくる。けど関係ない。僕の目はデルの水着に、いやそこからのぞいている素肌に釘付けだ。白いな、どんな日焼け止め塗ってるのだろうか?おわっ!
デルの手が僕の手に触れたと思った瞬間に手に激痛が走り、気が付いたらその場で回って焼けた砂浜に叩きつけられていた。
なんだ?
何が起こったか全くわからない?
僕は砂を落として立ち上がる。みんな狐につままれたような顔をしている。
「手のひらの形が木の葉っぱに見えるのと、風で木の葉が舞うみたいに見えるので、この技は『木の葉落とし』と呼ばれます。片手で人を投げる事が出来る便利な技のうちの1つです」
うん、便利だ。これなら大人数相手でも近づく者をドンドン投げる事が出来そうだ。
「ではゆっくりと解説しますね。まずは外側から4本の指を掴みます。そして指取りと同じように指を関節の逆に曲げて相手の肘の方に向けて捻り上げます」
その瞬間手に激痛が走り、僕は逃げようとつま先立ちになる。
「そして相手が跳び上がった瞬間、相手の足と足を結んだ線と垂直に伸びる線を頭で描いてその線上に手を引っ張り落とします」
踏ん張りが効かないので軽く前に転倒する。デルが手を引っ張り、僕は背中から砂浜に落ちる。ちょうど下からデルを見上げる形で絶景だ。背中が熱いが男は我慢だ。
「こりゃ熱いな、今日は投げられる側はしんどいな。男女ペアで俺達が投げられるよ、そして後で男同士練習するよ、その時マイ達は泳げばいいよ」
僕の意見は満場一致で採用。
僕はマイに満足するまで投げられ続けた。色んな角度からマイが見れて僕も満足だ。背中は熱いけど心も熱い。夏だな!
みんなでひと泳ぎしたあと、僕達は男同士練習したが、誰ひとりすぐには出来なかった。違うものばかり見てたからだろう。煩悩の賜物だろう。
見かねたデルが教えてくれるが、3人とも出来るようになるのは時間がかかった。特に器用なパムがそんなに物覚え悪い訳がない。眩しすぎるデルの水着姿のせいだろう。僕達は木の葉のように舞いながら夏を満喫した。