夏祭り
僕らが住んでる町で今晩夏祭りがあると言う。
盆というもので、祖先の霊を祭り、教会の前の広場に櫓を建ててみんなで音楽に合わせて踊るそうだ。東方から伝わった風習で、浴衣と呼ばれる前が開いている服を帯で留める僕達の道着のようなものを着るのが最近の流行だとマイが言っていた。
王国の王は代々東方が好きで色々な風習を取り入れているからその一端だそうだ。
「ザップー、準備できた?」
部屋の外からマイが呼ぶ。僕は王都で購入した甚平と言う服を着用している。簡単に着れて涼しい。そろそろ日が暮れるので祭りが始まる頃だ。
「ああ、オッケーだ」
部屋の外にはマイとドラゴンの化身アンと、魔道都市の導師ジブルが浴衣に身を包んでいた。いつもと違う格好は少し新鮮だ。
外灯に照らさせた大通りを中央の教会に向かって歩く。思いのほか人が多いこの街ってこんなに人が住んでたんだな。
中央広場に着くと、その真ん中には櫓が建っていてその下にはステージがあり、色んな楽器で音楽を奏でている。広場の周りには露店がテントを連ね香ばしい匂いが漂ってくる。
おお、祭りだ。
ほとんどの人は普段着だけど、浴衣の人もちらほらいる。浴衣っていいな。東方の祭りではみんな浴衣だと言う。1度は行ってみたいものだ。
屋台で氷水につけてあった瓶に入った飲み物を買ってみんなで飲む。すこし値は張るけど、その価値がある。冷たくてとても美味しい。
誰かが走ってくる音がする。
「ザップさん、ハザードです!ゴブリンハザードです!」
僕の袖にしがみつき、元大神官のシャリーが肩で息をついている。彼女も浴衣で、その隙間から豊かな谷間がのぞいている。
「シャリーちゃん、何があったの?説明して」
マイがシャリーに肩を貸す。
「神託です。私の奉ずる神から、ここに向かってゴブリンの軍が向かっているとの啓示がありました」
「神託?しかも人助け的な。え、シャリーの神様って邪神じゃ無かったのですか?」
アンが失礼な事を僕の代わりに代弁してくれた。金の亡者で享楽主義者のシャリーの神様って意外にまともな神様なのか?とっても懐が広い神様なのだろう。
「真偽は置いとくとして、で、どうするか?祭りの踊りは魅力的だけど、しょうがないな。俺はいつも通りゴブリンと踊る事にするか」
「勇者殿、わたくしもお供しますわ」
マイが気取って浴衣の裾を摘まんで一礼する。少しドキッとした。
「ドラゴンダンスも披露しますよ」
アンもやる気十分だな。
「では、わたしは、ここで盆踊りを楽しませて貰いますね!」
「お前もこい!」
僕はシャリーの襟首を掴んで走り出す。
街を出てシャリーのナビに従い進むと、雲霞の如きゴブリンの大軍が。祭りを楽しんでる人達のために、うちもらしは無しだ。
そしていつものように僕達の盆踊りがはじまった。