ザザンクロスを見る
「南十字星を見たいわ!」
ソファで寛いでいる僕のそばにマイが駆け込んで来た。部屋にはあと1人、氷の塊に服が濡れるのも気にせず抱きついているドラゴンの化身アンがいる。逆に凍傷にならないのだろうか?
「南十字星?それってここからは見えないだろ」
南十字星って何かで読んだ記憶がある。南の海を旅する冒険者が方位を知るための目印にする綺麗な星座だったような。
「うん、ここからは見えないわ。けど、見えるのよ臨海都市シートルでは」
「シートルって、あの海の街か?」
「そうよ、そのシートルよ。前行った時も見れたらしいけど、迂闊だったわ、その事全く忘れてたわ。最近リナちゃんとナディアはまたシートルに行ったらしいけど、夜の海の上に浮かぶ南十字星がめっちゃ綺麗だったって言ってたわ」
マイの鼻息が荒い。そうだな、僕も全く気にしてなかった。なんか空の星並びがおかしいなってくらいしか考えて無かった。何て言うか、旅に出て普通にご飯を食べて、そこのご当地グルメを食べ損なったような気分だ。しかも知り合いに、そのあとあそこのなになにが美味しいよねって聞かれて地団駄踏んでるような感じだ。
これはいかんぜひ見に行かないと。
「よし、行くぞ、行って拝んでやる南十字星!」
「きゃー、いこいこーっ!」
「私は氷舐めてちゃ駄目ですかぁ?」
「四の五の言うな。お前もついてこい!」
さすがにマイと2人で夜に星を眺めるのは心臓に悪い。
斯くして僕達は、リナのワープポータルを使って、南の国の臨海都市シートルにプチ観光に行く事になった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
晩御飯をシートルで食べて、僕達はビーチにやって来た。当然水着だ。たまに海で遊んだりしながら星を眺める予定だ。
「ザップ、私が調べた所によると、深夜の10時くらいに南十字星は現れるはずよ」
ピンクのフリフリのワンピースを着た見た目幼女の魔道都市の導師ジブルが僕の横で口を開く。僕達はリクライニングのビーチチェアに寝転んでいる。マイとアンは暗い中、海と戯れてる。2人ともビキニで、マイはピンク、アンはブルーだ。あいつら幾つ水着持ってるのだろうか?僕は一張羅なのに。
でも、正直すげーなと思う。何て言うか夜の海って手かなんか出て来て引きずり込まれそうで、少し、いや結構怖い。まぁ、泳ぐのが苦手って言うのもあるけど。
今日は月もなく星を見るのには最適だと思ったが、けっこう雲が多い。目当てのものは見えるのだろうか?
「ザップ、起きて起きて!」
何かが僕を揺すっている。マイだ。いつの間にか寝てたみたいだ。
「見てみて、天の川の下の方」
天の川を下って行くと、暗い海の上に十字の星並びが……
思ってたより小さいが、思ってたより遙かにそれは綺麗だった。宝石の十字架だ。
僕はしばらく南十字星に見とれていた。