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「それでは今回の勝負のルールは、負けた方がお家のお風呂を含む全ての部屋の掃除と家事全般を一日するという事で!」
マイが人差し指ビシッと立てて言い放つ。
「それって、庭の草むしりも含まれるのか?」
「あっ、それっていいわね。それも込みで」
おおっと、墓穴だったか。でも負けなければいいんだ。
「では、ご主人様、私はマイ姉様と一緒に行きますね。今はピオンの方が強いですけど、ご主人様には成長促進のハンマーがありますからね。これで条件も五分五分でしょう」
ドラゴンの化身アンがマイの腕に絡みつく。最近仲良しだな。
どういう理屈で、パワーレベリングにおいて僕のハンマーとアンが同格なのかは解らないがマイとアンは納得してるみたいだから、まぁいいか。
ここは迷宮都市オリュンピュアの迷宮の地下27層。目の前の大部屋に無数のトロールがいる。いわゆるモンスターハウスというやつだ。そこに突っ込む前に小休止を取っていた時にマイ達が追いついて来た。それで朝の約束を思い出した。
僕達は、ここで新人のパワーレベリングなうだ。僕が獣人のケイ、マイとアンが忍者のピオンを担当している。それで、より強化出来た方が勝ちと言うわけだ。
今までの熾烈な修行でケイはトロールを素手で秒殺出来るくらいには強くなった。ここで追いついて来たと言う事はピオンもかなり強くなってるとは思うが、ケイの強さはかなりなものだ。
「マイ、勝負だ。トロールを沢山狩った方が勝ちだ」
「望むところよ。じゃあ勝負ね」
と言うわけで、トロール狩り競争inモンスターハウスが開催される事になった。
「あのー、私達の意思は……」
「行ってこい!」
なんか言ってるケイをモンスターハウスに押し込んでやった。
「うおおおおおーっ!120%マッスル!」
ケイ、いきなりやりやがった。
筋骨隆々のトロールさえ横に並ぶと貧弱に見えるような見事な筋肉の鎧に身を包み、ケイはトロールの群れに全く躊躇なく突っ込んでいく。教育の賜物だ。
良かった……
今回の唯一の懸案事項であった下着はなんとか耐えきった。東方の相撲では全裸になったら負けと言う。多分今回も同様なペナルティが発生するはずだ。まあ、その前にトロールの群れに全裸で突入する時点で人としてはなんか終わっている感があるが。
「ケイ、さらにマッチョに……」
マイがうちのケイに驚いている。
「完全に人間辞めてますね……」
ドラゴンのお前が言うな。
ケイはハンマーでトロールを粉砕し、その破片が他のトロールに降り注ぎ再生出来ない程のダメージを与えていく。一石二鳥作戦だ!
「ピオン!全力で行って!」
「ラジャー!」
マイにピオンが答える。ピオンは身の丈程ある大斧を片手に風になる。ピオンの目の前のトロールの頭が黒いもやに包まれたと思った時には風のようにピオンが通り過ぎ、その首が宙を舞う。何かの術で動きを止めてるのか。いかん、ピオン強いな!
実力は拮抗している。ケイが力押しで複数同時に倒していくのに対して、ピオンは正確な技術で一体一体確実にスピーディーに斃していく。まるで僕とマイの戦いを見ているみたいだ。
みるみるトロールは数を減らし、最後の一体をケイとピオンが同時にたおす。
「試合終了!」
アンが声を上げる。
「ケイ、何体斃した?」
「え、必死でしたので、数えてないですよ」
ケイの斃したトロールを数えてみるが、原型を留めていないので数えようがない。
「マイ、数えて無かったのか?」
「ピオンは23体だったけど……」
しばらく静寂が訪れる。
「両者引き分けっ!」
アンがケイとピオンの手を掴んで上げる。意義なしっ!
僕とマイは2人に惜しみない拍手を送った。