剣術修行
「ザップさん、突いたら直ぐ引く。突いたあと背中側に回られたら隙ができます」
僕は急いで剣を引き、アンジュの振り下ろした木剣をなんとかかわす。
「突きはかわされにくくリーチも長いのですが、攻撃ポイントが先端部分だけになりますので受けられにくいけど、かわされやすいです。それに刺突のダメージでは一撃で敵を殺傷出来ない事が多いし刺さった剣を持ってかれる事もあるので、引きが大事です」
僕と正対してアンジュが滔々と語る。
先日、僕はかつて勇者アレフから接収した勇者の剣を使えるようになった。盾と鎧はまだ使えないけれど。勇者の剣は強力だけど1つ問題が。僕は剣を使えない。振り下ろす事と突き刺す事くらいしか出来ない。
マイに相談したら、僕らの知り合いで剣の扱いに長けているのは、北の魔王リナと少女冒険者パーティーのリーダーの戦士アンジュの2人だそうだ。リナの武器は大剣、アンジュは両方扱えるそうで、僕の剣は片手剣なのでアンジュに教育をお願いすることにした。アンジュは2つ返事で引き受けてくれ、今、僕と木剣で稽古を付けてくれている。ちなみに僕の持ってる木剣は凄まじい呪いがかかっていて、素晴らしいデバフつきだ。身体能力の差を埋めるために魔道都市の導師ジブルがプレゼントしてくれた。なんか木目が人の顔のように見える気持ち悪いブツだ。
「ザップさんの攻撃方法は3つしか無いようですね、少し下がって下さい」
僕はアンジュと距離を取る。
「ザップさんの技は、突き、唐竹割り、袈裟斬りの3つです」
アンジュが突き、上段からの振り下ろし、アンジュからみて右上から左下の切り下ろしを披露してくれる。その動きには無駄が無く、美しささえ感じる。
「あと6つあります。逆袈裟、切り上げ、逆切り上げ、切り払い、逆切り払い、振り上げ」
左上方から右下方、それからその逆に切り上げて、その反対の切り上げ、横水平、その逆、そして、降ろした剣をそのまま上に切り上げる。よどみなく一定間隔で振り続けた。これ実戦だったら捌けないぞ。
「だいたい今の9種類の攻撃方法とその変形しか剣術にはないです」
アンジュは構えを解く。
「まずは、今のを反復練習して下さい。ちなみに下から上への攻撃は重力の関係上どうしても威力は出にくく遅くなりがちなので、実戦では牽制に使われる事が多いです」
僕はゆっくりと今の9つの攻撃方法をなぞる。うん、ヘロヘロだ。
「あと、最後にせっかくですので、私の得意技を披露します。ザップさん、私に上段からの攻撃をお願いします」
僕たちは構え正対して僕は言われた通りにする。
僕の上段からの攻撃をアンジュは前に出ながら受けたと思った時には僕の目の前に木刀の切っ先が……
「秘剣燕返しです。攻撃を捌きながら攻撃します」
アンジュが空で実演してくれる。剣先はカーブを描き、架空の剣を逸らしながら前に出て斬りつける。これはエグい、防御と攻撃がほぼ同時なのでまずかわせない。やはり、我流ではなく教えを請うてよかった。より早く熟練出来そうだ。
「ありがとう。まずは、基本からだな」
僕はアンジュに礼を言うと、さっきの9つの型を自分のものにするために剣を振り続けた。