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 パワーレベリング2


 私の名前はピオン。今はレストランでウェイトレスをしてるけど、本来の姿は闇に生きる者、諜報、暗殺などを活計たつきとする忍者だ。

 レストランの仕事が終わり、隣の家のお風呂に向かう。私達の職場は衣食住を提供してくれるだけでなく、隣に住んでいるザップ・グッドフェローの家のお風呂を自由に使ってもいい。何処の王侯貴族だろうか。王族でさえも好きなときに風呂に入れる者は少ないだろう。

 ただその時のルールはお風呂の入口に女子入浴中の札をかける事だけだ。ザップが間違って入ってくるのを防ぐためらしい。

 ザップは私の命の恩人だ。一緒にお風呂に入るくらいなんてことないのに。むしろ、一緒に入りたいくらいだ。まぁ、けどルールなので従う。この労働後の入浴が禁じられたら私の楽しみのうちの1つが無くなってしまう事になるから。


 私が湯船で至高のひとときを過ごしていると、1人の女性が入って来た。

 マイだ。ザップの仲間でなにかと私に因縁を付けてくる。私がザップの唇を奪ったのが気に食わなかったらしい。それなら自分もザップの唇を奪えばいいのに。いつも一緒にいるのだから。


「ピオン、あなた明日と明後日休みでしょ、休みの中悪いけど一緒に迷宮に行くわよ」


 馴れ馴れしく私の隣にマイが座る。むぅなかなかのプロポーションだな。けど、胸は私の方が大っきいな。


「何をしに行く?」


「あなたの修行によ、あたしとアンがあなたを鍛えて、ザップがケイを鍛える事になったわ」


 何を言っているのだろう。ザップが私の同僚のケイを鍛えるのは解る。ケイは全くの素人だからな。ケイは可愛いからこの優しくない世界で生きて行くためには少しは戦えるようになった方がいいだろう。


 マイとアンが私を鍛える? 


 何を言ってるのだ? 


 アンと言うのは確かマイとザップと一緒に住んでいる角の生えた美少女だな。2人ともザップから私の実力を聞いているだろう。

 という事は私にマイとアンを教育して欲しいと言う事か。まあ、ザップには借りがあるから引き受ける事にしよう。鍛えて欲しいなら素直に言えばいいのに、女としてのプライドか?


「いいだろう。引き受けた」


「じゃ、ピオン頑張りましょうね」


 マイが私に屈託のない笑顔を向けてくる。マイは可愛いな。ザップのお気に入りなんだろうか。それならしっかりと自衛が出来るくらいには鍛えてやろう。


「任せろ」


 私は手を振って風呂からあがった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 マイとアンと店で落ち合いマイについていく。それにしても2人とも完全に冒険を舐めている。2人とも普段着で武器さえも持ってない。油を塗って音が出ないようにした鎖帷子の上に黒装束を来て、リュックに冒険道具一式と腰には忍者刀を下げた私とは大違いだ。

 ザップの家の小部屋に入ると床には複数の魔方陣が描かれている。促されてその1つに入ると景色が変わる。岩に囲まれた場所に出る。

 なんだ、これは? 訳が解らない。2人に促されて、そこから移ると遠くに城壁に囲まれた街が見える。


 え、迷宮都市オリュンピュアだ……


 昔仕事で訪れた事がある。そんな馬鹿な。ではさっきの魔方陣は遠距離移動のもの。そんなものが有るなんて、生まれてこの方聞いた事も無い。


 迷宮都市に入ってからも驚きの連続だった。迷宮都市の3つの壁のゲート全てマイは顔パスだった。マイは実は王族かなにかなのか?


「おい、準備はしないのか?」


「え、準備?」


 マイとアンはそのまま迷宮に入ろうとする。


「あ、ごめん、もしかして何かお買い物したいの?」


「違う、お前達、荷物はないのか?」


「あ、ごめん」


 マイがそう言うと、マイの手から光るプレートみたいなのが出て来て私のリュックに触れるや否やリュックが消え去る。


「…………」


「ザップの収納に入れたわ。私達の荷物もそれに入っているの」


 私は驚きを通り越してもはや何も言う気にはなれなかった。

  

 迷宮に入ってからは私のターンだ。迷宮に群れる冒険者を追い越しながら疾風のように駆け先に進む。2人はなんとか私に追いついて来ている。遭遇するスライムやゴブリンを一刀の下に切り捨て漏れなくドロップアイテムも回収していく。2人は驚きで何も言えないようだ。けどそれでいい。戦いを見るのも修行のうちだ。


「………っ」


 私は立ち止まる。


「ピオン、どうしたんですか?」


 アンが間の抜けた声を出す。こいつは何も解ってないな。


「この先に魔物の集団がいる。今日は引き換えそう。私たちには荷が重すぎる」


「じゃ、進みましょう。やばくなったら助けてあげる」


 何が助けてあげるだ。武器すら持ってないくせに。そうか、マイは私をここで抹殺する気なんだ。恋敵でライバルである私を。そうはいかない。私は忍者。いざとなったら逃げてやる。


 進むと大部屋で十数匹のゴブリンが……


 ゴブリン一匹一匹は弱いがあんなに集まったら私の手には負えない。けど、やれるだけはやってみるか……


 私は駆け出す。1匹、2匹、3匹を切り捨てた所で囲まれる。マイとアンは遠くで見てる。クソッ。トレインしてなすりつけてやる!


 私は踵を返す。ゴブリン達は喜色浮かべ私についてくる。


「三匹、やっぱり戦い方の線が細すぎるわね」


 マイが、てくてく歩いてくる。


 何を言ってるんだ?


 なぜ逃げないんだ?


 死ぬ気か?


 私はマイの横をすり抜ける。そしてそのまま駆け抜け振り返る。マイをゴブリン達が囲むがマイはそのまま歩いていく。近づいたゴブリン達がパタパタ倒れていく。何が起こってるんだ?


 ゴブリン達は首が消失し鮮血を撒き散らしている。そしてゴブリンが全て地に伏しマイが振り返る。いつの間にかその手には身の丈を超える大きな死神の鎌みたいなものが……


 ガシッ。


 肩を何かに掴まれる。万力で締め付けられたみたいに動け無い。


「次は逃げちゃダメですよ。限界まで戦って下さいね」


 アンが私の肩を握って微笑む。


 そうか、気付かなかった。勘違いしてた。

 大きすぎるものが目の前にあったらそれが何かは解らないものだ。それまでに私と彼女たちには力の差が……


 これが地獄の始まりだった……


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