パワーレベリング
「どっせーい!」
僕の目の前で、まるでゴリラのような筋骨隆々の猫耳女性が、ゴブリンの一団をなぎ倒す。
これってもしかして僕は要らないのではないだろうか?
僕は今、パワーレベリングのために迷宮都市オリュンピュアの迷宮に来ている。最近はここでも夏の暑さに対して涼を取るために来ている冒険者で浅層はごった返していたのだが、ドラゴンを見たと言う噂のおかげで、今はがらんとしている。
女性の名前はケイ。臨海都市シートルで拉致されて盗賊都市で僕が保護した少女だ。普段は家の隣の『みみずくの横ばい亭』で住み込みのウェイトレスをしている。
普段は華奢で大人しい少女なのだが、この前ザップ・ハンマーを手にしてから筋肉操作というスキルを開花させたみたいで戦闘になると筋肉ダルマに変身する。そのたびに服が使い物にならなくなるので、魔道都市の導師ジブルが手に入れてきた伸縮自在の下着を纏っているのでなんとか尊厳は保たれている。
けど、水玉のその魔法下着すら伸びてマイクロビキニになってしまうので、目の毒、いや目のやり場に困るので僕の予備のミノタウロスの腰巻きを貸している。
「ザップ兄様。掃討完了ですっ!」
甲高い声を上げて、豊かな大胸筋を誇示するようなポージングで喜びを表している。ピクピクされてます。あれって元に戻っても出来るのだろうか? 胸を交互に動かす女の子、それはそれで見てみたい気もする。
先に潜ったマイとドラゴンの化身アンは自称忍者のピオンを鍛えている。女の子と2人っきりで迷宮に潜るって少しドキドキだったけど、少し陰とストーカー臭はするが、ピオンの方が良かったなと少し後悔する。
「ケイ、そのなんて言うかその格好恥ずかしくないのか?」
「いえ、全く。あたしは強くなりたいんです。物語の変身ヒーローみたいで格好いいじゃないですか? それにマッスル嫌いじゃないし。どんな事をしてでもマイ姉様やザップ兄様みたいに強くなりたいんです」
ふぁさっ。
ケイの体が元に戻りミノタウロスの腰巻きが地に落ちる。下着姿のままそれらを拾って腰と胸元に巻く。全く僕の事を気にせず動いたので、かなりの眼福だった。変態貴族の部下に拉致されたくらいなので、ケイはかなり可愛いし、プロポーションもいい。胸はマイより大っきかったような。うん、ピオンよりもケイで良かったかも。
ケイが僕達に会うまでの事は、孤児だったという事しか知らない。大変だったのだろう。出会ったのも何かの縁。1人で生きて行けるくらいにはなって貰おう。
破竹の快進撃は進み、みるみるケイは更に強くなっていく。変身しなくてもハンマーを無難に扱えるようになって、僕は下着にマントと腰巻きだけのケイの戦いをしっかり見つめている。アドバイスを与えるためで、決してチラチラ見える際どい所を見てる訳ではない。
そして、第1の関門に差し掛かる。オークキング。オークの上位個体だ。今までの敵とは一線を画する。フロアボスが居るって事はいつの間にかマイたちを抜いたみたいだ。
「行きます」
良く通る甲高い声を上げて躊躇なくケイは駆け出す。大上段に振り上げたハンマーを叩きつける。
ガキーーン!
金属のぶつかる大きな不協和音がこだまする。
オークキングは両手にもった金属の棍棒でケイのハンマーを受け止める。
そうなのだ。パワー、スピード、技術。全てが急に高くなる。オークキング。浅層に立ちはだかる壁だ。
「あたしは強くなる! マッスルパワー120%開放!」
ケイが可愛らしい声で叫ぶ。まだ筋力操作の上があるのか?
「うおおおおおおおおーっ!」
ケイを覆っていた腰巻きが落ち、その背中とお尻が現れる。なんとか下着は生きているが、紐状態で食い込んでいる。女性のほぼ裸を見てるはずなのに全く心に響かない。むしろ目を背けたくなる。さっきまではあれがチラチラ見えてドキドキしてたのに、違う意味でドキドキしてる。
「ブキー!」
オークキングが悲鳴を上げる。
「おおおおおおおーっ」
声だけは可愛い……
ケイの背中が盛り上がり筋肉がまるで悪魔の顔のように見える。子供が見たら、悪夢にうなされそうな感じだ。
ごきゅっ! ごすっ! ばき! ぶじゅ!
そのまま、ケイは力ずくで押し切り金棒をへし折りオークキングの頭にハンマーが沈んでいく。気持ち悪いのでついに目を背けてしまう。
「うっしゃーーーーっ!」
見ると、血にまみれた悪鬼羅刹がハンマーで天を突いている。キンキン声で。
パワーレベリング、やり過ぎたな………
そのパワーって力って意味だっただろうか?