2代目最強の荷物持ちの冒険
僕の名前はラパン・グロー。もう一つの名前はラファエル・アースウインドファイヤー、名乗るとかなりドン引きされる名前だ。魔道都市アースウインドファイヤー、略してアウフの一応第一位王位継承者だ。
けど、今は謹慎が解けた従兄弟のアカエル兄さんにそれは譲って王国の宿場町のレストランでウェイトレスをしている。
聖教国に留学していた時に仲良くなったシャリーちゃんと、僕を命がけで助けてくれた手のひらサイズの妖精のミネアも一緒に住んでいる。
お店は忙しく週に一日休めるかどうかの状態だったけど、最近2人の新人が入って来た事で少しは余裕が出来てきた。
それで空いた時間を使って冒険に出る事にした。ラパンとして体験した冒険は大変だったけどドキドキの連続だった。冒険はお酒のようなものだって言ってた人がいたが、まさにその通りだと思う。1度酔ったらその楽しさは忘れられない。
「ラパン、これにするわよ。冒険者の駆け出しの仕事って言ったら、薬草採集か隊商の護衛。ちまちましたのは面倒だから、これに決定!」
仮設の冒険者ギルドの掲示板に貼ってある1つの依頼をミネアが指差す。
『隣町までの往復の護衛。成功報酬小金貨2枚』
相場は余り解らないけど、少し安い気もする。今日と明日休みだから往復したらちょうどいい感じだ。
「わかった。これにしよう」
僕は受付にその依頼の紙持っていく。
「なんだぁ?お嬢ちゃんが護衛なのか?大丈夫か?」
依頼主はやたら顔が長い背の高いおじさんだった。
「はい、僕は魔道都市アウフのギルドの魔道士ですから」
僕はギルドに所属している証であるメダルを出して見せる。
「へぇそうかい。人は見かけによらないんだな」
男は商人で馬車に積荷を乗っけて往復するとの事だった。最近は物騒で魔物が出る事もあるので護衛をやとったそうだ。
街を出て、街道を歩く。行きは重い物を運んでいるので、馬車はスピードが出せないそうで、僕達の歩くスピードに合わせてくれるそうだ。
歩く。何も無い。
歩く。何も無い。
早歩きする。何も無い。
飽きて来て軽く走る。馬車もついてきている。
予定より早く町に到着して、次の日の出発の朝まで自由時間になった。僕とミネアは田舎町を散策して時間を潰して取ってあった宿に泊まって朝を迎えた。
そして町を出発してまた街道を小走りで帰る。ただ進むだけで何も無い。なんか物語とかではゴブリンとか盗賊とかが襲ってきたりするものだけど、現実はそんなものか。けど、平和が一番。
走り続けて多分もうじき街につきそうな所で、いきなり馬車が飛ばし始めて僕達を追い抜き疾走していく。
「うわっ。ラパン、あの商人あたしたちを振り切るつもりよ。そして護衛は逃げたとかいって依頼料を払わないつもりなんじゃ?」
僕の頭にしがみついてるミネアがキーキー言う。
「幻術で懲らしめてやるわ!」
「待ってミネア、とりあえず追いつこっか」
僕は全力で走り出す。しばらくして追いつき馬車と併走する。
「おじさーん。どうしたんですかぁ?」
僕は御者台の商人に声をかける。
「ヒェッ、の、納期が間に合わなさそうだから急いでるんだよ」
「へー、そうなんですね。もっと急がないとですね」
僕は馬車を丸ごと収納にしまい、落ちてきた商人を両手で頭の上にかかげる。
「落ちるから暴れないで下さいね」
「ヒェーーーーッ!」
奇声を上げる商人を掲げたまま、僕は最高スピードで走りだす。直ぐに馬を抜き去り風が僕の髪を靡かせる。
「きゃー!ラパンもっともっとーっ!」
髪にしがみついたミネアがはしゃいでいる。
ザップ兄さんから学んだ前の空気を収納に入れて後ろから出す『荷物持ち走り』でさらに加速する。みるみるうちに景色が流れて行き。あっという間に街の城門に到着する。
腰を抜かした商人を地面に置いて馬車を収納から出す。
「これで依頼完了ですね」
「ああ…」
商人はガクブルだ。
このあと貰った依頼料は少し色がついていた。