荷物持ちのリベンジ
「いくぜ!」
僕は帯をきゅっと締め駆け出す。
帯の色は赤と白のストライプからピンク色に昇格?している。先日黒帯に昇段したマイから譲り受けたものだ。
「ザップー、頑張ってー!」
声援を送ってくれるマイを見ると、その腰には黒い帯が。くーっ、羨ましい。
僕は目の前で、リズムをとりながら構えているウッドゴーレムにまずは牽制のジャブを放つ。
僕は今、森人格闘術の昇段試験を受けている。決められた時間内に目の前のウッドゴーレムを倒したら晴れて有段者認定を受けて黒帯を着ける事ができるようになる。
格闘術の先生であるエルフの野伏のデルと、黒帯のマイ、ドラゴンの化身アンと、マッスル黒エルフのレリーフが僕の闘いを見守ってくれている。みんな道着に身を包んでいる。
前回の試験は散々だった。パワー、スピードにおいて僕は目の前のウッドゴーレムを凌駕しているのだが、攻撃すれどすれども全く当たらず、逆にゴーレムはちまちまと僕に的確に反撃を命中させてきた。そして制限時間を迎えてしまった。
あれから僕は1人で修行を積んできた。
何故攻撃が当たらないのか?
それは攻撃が当たらない所にゴーレムがいるからだ。的確に僕の攻撃を見切り、しかもそれに少し力を加えて流す事で次の攻撃を封じていく。
格闘術は凄いものだ。今まで数多の人々が研鑽を積み重ね、長い年月をかけて効率化し熟成させてきたものだ。僕は不器用だ。そうそう一朝一夕で身につけられるものではない。
それでは諦めるのか?
いや、それは無い。
これからも自分より技術が高い者と対峙する事もあるだろう。スキルだけで倒せない者もいる事だろう。強くならないと。負けると言うことは、即、死に繋がる。自分の大切なものを奪われるという事だ。
それだけは嫌だ!
何も失ってたまるか!
シュッ!
僕のジャブをゴーレムは後ろに下がって避ける。そうなのだ。鍛え抜かれたジャブはかわせない。
シュッ!
僕はまた前に出てジャブを放つ。またゴーレムは下がってかわす。いい感じだ。これならいける。
「ザップさん、相手をよく見て動きの先を読んで下さい」
デルから的確なアドバイスが飛んでくる。解ってる。解ってるんだ。
けど、それじゃ倒せるだけだ。
技術に対してそれよりも高い技術で対抗する。格闘家としては間違っていないかもしれないが、それじゃ足りない。圧倒的に足りない。これ位の敵は秒殺しないと僕の目指す所には届かないのだよ。
僕は構えを解き無防備にゆっくりとゴーレムに歩み寄る。ゴーレムは隙の無い構えでこちらを伺っている。
パキュ!
僕の間合いに入った瞬間、ウッドゴーレムの頭が消えてカクリと膝をついて倒れる。
「え、何が起こったの?」
デルの目が見開かれている。
「俺の勝ちだな」
僕はデルの方を向き口の端を上げる。
「デル、ザップはね、高速のジャブを数発放っただけ。けど、あれは誰もかわせない」
さすがマイだな見えてたか。
前にデルから教えてもらった。力を抜けば抜くほどスピードは速くなる。けど威力は減る。それを回数でカバーし同じ所に5発ジャブを叩き込んだだけだ。
「…………」
デルは腕を組んで考え込んでいる。
「格闘術は人と人が戦うためのもの。蟻と巨人。どんだけ蟻が修行をつんでも巨人は倒せない」
デルは震える手で僕に黒帯を差し出す。自分の研鑽や大事にしてたものの価値が揺らいだのかもしれない。
けどそれは素晴らしいものだ。紛う方ことなくキラキラな宝物だ。
僕は黒帯を両手で受け取る。
「巨人は言い過ぎだと思うが、修行した巨人はもっと強い巨人になれるはずだ。お前のお陰で俺は強くなれた。デル、たのむ。これからも色々教えてくれ」
「はい。喜んで。私でよければ」
デルの笑顔は今までで最高のものだった。