メインウェポン(続)
僕達は艶やかな緑色をした城壁についている緑色の扉をくぐり抜け街に入る。この街の有力者と思われる導師ジブルがいるおかげで顔パスだ。入場待ちしている人達に羨ましそうな顔で見られる。やはり、ジブルはこの街ではかなり権力を持っているのだろう。
「さ、さすがですね、魔道都市……今度は負けないと思ったのですけど、私の魔法も解除されそうです……」
振り返るとドラゴンの化身アンが脂汗をかきながら、その場に仁王立ちしている。傍から見ると必死にトイレを我慢してる人に見えるが、僕は何をしてるのか即座に気付いた。こいつは己の全ての魔力を使って街の魔法解除能力と戦っているのだろう。
けど、アンの負けのようだ。彼女の服に虫食いみたいな穴が空き始めている。これはいかん。下着を付けてたら夏だし放置しようかと思ったのだが、どうもまだ文明に馴染んでないみたいだ。それにしても、裸に実体の無い魔法の服のみで大勢の前を通り、しかも魔法解除される街に突っ込むってどれだけ勇者メンタルなのだろうか?
見た目は耳目を集めるような美少女なだけに残念だ。
「マイ、なんか服を着せてやれ」
「解ったわ。んー、可愛いのにするわね」
間一髪、アンの服が消える瞬間にマイがポータルから服を出し装着する。いつの間にか集まったギャラリーから失望のため息が漏れる。なんでこんなに集まってんだ?
よく見ると、視線がマイに集まっている。ん、マイの服も穴だらけで下着がのぞいている。
「マイ、服、服!」
「きゃあ!」
マイもポータルから服を出して装着する。
「危なかったわ。忘れてたわ。だって暑いから……」
マイも魔法の実体の無い服で下着だけで歩いてたのか……
「あの、魔法使える腕輪、使いませんか?」
ジブルがおずおずとマイ達に腕輪を差し出す。
マイとアンはその呪術の道具みたいな物を物欲しそうな目で見ている。
「服を着ろ!」
「「はい……」」
ジブルは悲しそうに腕輪をしまう。自分のおきにのアクセサリーを他人にも付けて欲しいのだろう。
ちょっとしたハプニングもあったが、僕達はジブルの案内について行く。
到着したのは高い塀に有刺鉄線を張り巡らした監視塔がそびえ立つ屋敷跡だ。頑丈そうな鉄の扉がついていて、どこからどう見ても監獄にしか見えない。
「なんか、ものものしいわね。また、ザップとアンちゃん投獄されたりして」
マイが軽く笑う。そうだったな、僕達はこの街に前はついてすぐに留置所っぽい所にぶち込まれたんだった。
「大丈夫ですよ、ここに収監されているのは人間じゃなくて危険な魔道具ですよ」
すたすたと扉に向かうジブルに僕達はついて行く。
『ザップ、なんか嫌な予感がする。引き返した方がいいんじやないか?』
僕の頭の中に声がする。最近、喋るようになった勇者の剣だ。たまに収納の中から話しかけてくる。すこしウザイ。
『大丈夫、なんかあったら頼むよ』
『任せとけ!』
存外チョロいやつである。
門番にジブルが話しかけて、門が開き中に入る。その時一瞬辺りがすこしひんやりしたような気がする。土砂降りの前にいきなり涼しくなるようなあんな感じだ。