メインウェポン(序)
「ザップ、あったわよ、すぐに行くわよ!」
魔道都市の見た目幼女の導師ジブルが鼻息荒く駆け込んでくる。美味しい甘味でも見つけたのか?
「なにが?」
「魔王属性の武器よ!」
「えっ、何処に?」
「アウフよアウフ、魔道都市アウフよ!」
何故かテンションが高い。たしかに僕は魔王武器を欲した。けど、それでなんでそれでジブルのテンションがこんなに高いのだろうか? 自分で使う訳では無いのに。夏の暑さが彼女を情熱的にしてるのだろうか?
けど、僕も魔王属性の武器にはとっても興味がある。勇者武器は手に入れたから、これで魔王武器も手に入れて使えたら訳分からない事になる。魔王で勇者、卵を食べようとしたら黄身が双子だったようなお得感があるが、この卵が孵化したらひよこが二匹生まれて来たのだろうかという感じの疑問も残る。
「ありがとうジブル。それで、その武器って売って貰えるのか?」
「買う事は出来ないわ」
「じゃあ、興味ないな。鑑賞用なのか?」
「ザップ何言ってるのよ、買えないけど貰う事は出来るわ、その武器って、触った人がお腹を壊す呪いがかかってるのよ」
「えっ?」
ただで貰えるのか?
でも下痢する呪いってなんて地味で気持ち悪い呪いなんだ。そいつは僕も欲しくない。触る度にお腹壊すのなら冒険で使ったら悲惨な事になる。冒険者にとって下痢は人としての尊厳をも蹂躙されるバッドステータスだ。
「という訳で、アウフに行くわよ!」
ジブルの謎テンションに押されて僕達はアウフに行く事になった。
「触ったら、お腹壊す?便秘にいいかも……」
マイの小さな独り言を僕は聞き逃さなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
緑色のすべすべとした城壁が目の前に見える。
魔道都市アウフ。アース、ウィンド、ファイヤー、3つの属性を極めた魔道士が作ったとされる伝説を持つ、東方十二都市国家群の内の1つ。
大陸で最高の魔道技術を持ち、様々な魔道具を周辺国家に輸出している。大陸の魔道士ギルドの本拠地があり、街のギルドが作った結界は、都市の中で許可を持たない者の使った魔術を全て無効化する。街には平和を守る守護聖霊がいるとされるが、黒竜王が暴れた時にはビビって出てこなかった。
「では皆さん、この腕輪を付けて下さい」
ジブルが僕達、僕とマイとアンに腕輪を渡す。
僕達は露骨に嫌な顔をする。それもそうだ。その腕輪にはびっしりと髑髏の彫刻が施されている。しかも僕のやつは髑髏の口からなんか悪霊的な物が出ている図柄で悪趣味さが一段秀でている。こんなもん皆ぞろ付けてたら、邪神の使徒にしか見えない。けど、もしかしたここではそれが普通なのか?
「この腕輪を付けてたら、なんと、アウフの中でも魔法が使えるんですよ」
ジブルがドヤるが、あいにく魔法職はこいつだけだ。
「俺、いいわ、魔法ほぼ使えんし」
「あたしも生活魔法くらいだし」
「私も魔法つかわないですし」
怪訝そうな顔してジブルはしぶしぶ腕輪を受け取った。
そして僕らは久しぶりに魔道都市に足を踏み入れた。