昇段試験
「今日は皆さんに森人格闘術の昇段試験を受けてもらいます」
今日はエルフの野伏のデルによる格闘技講座だ。
生徒は、僕、マイ、アン、マッスル黒エルフのレリーフの4人だ。最近は子供族の吟遊詩人のパムがレギュラーだったのだが、昇段試験はまだ早いと言うことで今日はいない。最近は僕の代わりにいたぶられてくれていたのでなんか寂しいし嫌な予感がする。
今日も全員、前が開いて帯で締める道着という服を着ている。なんか無骨な服ではあるが、女性陣は下にシャツを来ているのは解ってるけど、襟元がはだけたらつい目が行ってしまう。もしかしたら見えるかもと思ってしまう。要は意外にセクシーさも兼ね備えた服だと言うことだ。
その道着に僕は赤と白のストライプの帯。青を混ぜたら理髪店だな。マイはピンクで、アンは白地に青の水玉模様だ。レリーフは白だ。昇段試験って事は黒帯を貰えるはずだ。黒帯って事はやっと見習い卒業していっぱしの武闘家を名乗る事ができる。
「今日は昇段試験用の森人特製ウッドゴーレムと素手で戦ってもらいます。このグラップラーウッドゴーレムシードを土に埋めて魔力を込めたらウッドゴーレムが出てきますので、それを倒して下さい。倒せたら合格です」
デルがクルミのような実を1つづつ僕達に渡す。ちなみに料金は先にはらってある。1人小金貨3枚づつだ。けど、ゴーレムの種がその値段で手に入るのは破格だと思う。さすがエルフだ。けど、貴重なゴーレムをそんな格闘技の試験に使うなんてどんだけ格闘技に命かけてるんだろうか?
「じゃ、あたしからいくわね」
マイがデルから小さなスコップ受け取って実を埋める。そしてしばらくその地面に手をあてる。すると地面からモコモコ木が生えてそれが人型を成し、地面から体を切り離す。卵型の頭に関節部分が丸い人型のウッドゴーレムが動き出す。
「ハアッ!」
マイがゴーレムに襲いかかる。好戦的になったものだ。上段、中段の突きから回し蹴りに繋げる。見るものを魅了する綺麗な動きだ。それをゴーレムは力を流すように綺麗に受け流していく。凄いマイの怪力を上手く流している。
「マイ姉様、これが初段の力です。マイ姉様なら倒せるはずです」
「解ったわ。頑張るわ」
デルにマイが答える。
その後しばらくマイ達は打撃戦を繰り広げるがお互い綺麗に受け流したりかわしたりする。まるで呼吸の合ったダンスみたいだ。けど、均衡は直ぐに崩れた。ゴーレムの突きをマイがかわしながらその手を引っ張り、つんのめったゴーレムの背後をとる。終わったな。
マイは後ろからゴーレムに抱きつく。少し羨ましい。
「ハッ!」
気合一閃、マイはそのままゴーレムを持ち上げて後ろに反り返る。そしてゴーレムの頭を地面に打ち付ける。
『ジャーマンスープレックス』
王都の格闘ショーで人気があるという伝説の技だ。まさかマイがそんな技を使うとは……
鈍い音がするがまだゴーレムは足搔いている。
「ハアッ!」
そこからマイは後ろに向かってジャンプしてゴーレムの頭を起点にバク転し、更にゴーレムを持ち上げて大地に叩きつける。
ぱきーーん!
乾いた音を立ててゴーレムの頭は砕け散る。
「決まり手、ジャーマンスープレックス地獄車仕立て。マイ姉様、文句なしの合格です」
地獄車、相手を掴んで後ろに転がりながら相手の頭を何度も地面に打ち付けるという伝説の技……フィクションだと思ってたが、目の前で実演されてしまった。
マイ、恐るべし。
前言撤回だ。ゴーレムがマイに抱きつかれて胸があたって少し羨ましいと思ったが、今後、マイに抱きつかれる度に今日のこの光景を思い出すだろう。
そしてその後、アン、レリーフ、それに僕もウッドゴーレムにけちょんけちょんにやられて、森人格闘術の奥の深さを堪能した。
「あーあ、ピンクの方が可愛かったのに」
そう言うマイの腰には黒色の帯が……
いや、絶対黒がいいって。
もの欲しげにしてたマイが僕にピンクの帯を譲ってくれた。これでコーディネートの幅が増えた……