黄金色の液体
「ザップ……これはザップが飲むべきだと思うわ……」
僕がテーブルに置いた金色の液体を湛えた小瓶、スキルポーションをマイが押し返す。
ん、何故だ?
「いんや、いいわ。マイ、甘いもの好きだろ。アンにはヘルハウンドの肉持ってきたからそれでいいだろ」
「あの、ご主人様。私、犬の肉はあんまり好きでは無いのですが……」
ドラゴンの化身アンが遠慮がちにちょこっと手を上げる。
ドラゴンのくせに贅沢になったものだ。牛の味を知って舌が肥えたのか?
「おいおい、前はヘルハウンドをまるっと丸呑みにしてただろ」
「それはですね、苦手だから丸呑みしてたんです。ご主人様だってこの前パセリ丸呑みしてたでしょ」
余計なとこばかり見てやがる。そうだ、僕はパセリは苦手だ。だが、マイに出されたら仕方ない。丸呑みするしかない。
「お前、担々麺だって丸呑みしてただろ」
「あれは、逆です大好きだからです!」
アンが丸呑みする基準は解らないが不毛なので話を戻そう。
「と言うわけで、マイ、飲め。ぐいっといっちまえ」
「いや、でも、やっぱ飲めないわ。いくらザップでもこれは貰えないわ……」
なんか、マイの表情や動きがぎこちない。なんかカクカクしてる。これは面白い。何が何でも飲ませてやる。
「あれ、何だ?」
僕は出来るだけ無表情でマイの上を指差す。そしてそこを見る。あたかも何かがあるかのように。
「え?」
マイは釣られて上を向く。
かかったな!
マイは上を向いて少し口が開いている。人間は上を向くと意識してない限り口が開くものなのだ。
僕は瓶の中身の液体を一旦収納の中に入れてマイの開いた口の中に出現させる。これで、遠慮がちなマイも喜んでポーションを飲む事だろう。
「ゴフッ!」
口に入れた飲み物を噴き出すような音がマイからしたが、マイは必死で両手で口を押さえる。マイがここまで慌てる様を初めて見た。
「マイ姉様、大丈夫ですか? めっちゃ愉快な顔になってますよ」
アンが懸命に笑いを堪えている。笑ったら後が怖いのだろう。
「ゴクン」
目を白黒させながらマイは音を立てて呑み込む。
「ゲフッ、ゴホッ、ゴホ、ゴホッ」
マイは喉に手をあてて咳き込む。溺れかけた僕を見てるようだ。
「大丈夫か、マイ?」
僕は優しく背中をトントンしてやる。昔、飴玉を詰まらせた妹をトントンした事を思い出す。
「ハァハァ、気管に入ったわ。溺れるとこだったじゃなのよー! ザップ、何すんのよ!」
マイが涙目で怒る。
「ごめんごめん、まさかポーションで溺れるとは思わなかった。次からはもっと優しくするよ。ん、溺れる? これって凄く危険な攻撃なんじゃ?」
そうだ。僕のスキルなら敵の口の中に水を勢い良く出すことで溺れさせる事が出来るのでは?
「はぁ、飲んじゃったわ。ザップ、あのポーション。いくらで売れたと思う?」
ん、もうマイのご機嫌が直っている。なんか目がキラキラしている。
「え、大金貨10枚くらいか?」
マイは首を横に振る。
「じゃ、もしかして100枚なのか…」
ん、もしかして鑑定のスキルポーションだったのか?
マイは首を横に振る。
え、もっと上なのか?
「その更に10倍。大金貨千枚でも直ぐに買い手が付くわ」
「うそだろ、そんなに高いスキルポーションあるのか?」
大金貨千枚だったら、城が買える。多分この国の王ポルトのボロ城よりいいものが買える。もっとも城をボロボロにしたのはそこにいるドラゴンの化身アンなのだが。
「成長促進のスキルポーションよ!」
「やっとマイ姉様、巨乳になれるのですか?」
アンは自分の事を棚に上げてる。
「違うわ! 胸じゃなくて、レベルアップしやすくなるポーションよ! プラス10%、プラス10%よ。ありがとう、ザップー」
マイははしゃいで、僕に抱きついて来る。大金貨千枚の価値のハグか……
少しだけ複雑だ……
「えー、マイ姉様だけずるいー! けど、客観的に見ると、スキルポーションっておしっこみたいですね。傍から見るとおしっこ飲んで溺れかけてはしゃいでいるみたいに見えますよ!」
少しは思った事が有るが口に出来なかった事を腹いせにさらっといいやがった……
マイは下品に容赦ない。血をみるな……
抱きついてるマイを見るが、マイは僕を見てにっこり笑う。
「負け犬の遠吠えね。ザップ、負け犬に犬をプレゼントしたら」
今日のマイはいつもと違う。
なんか可哀想なので、ドラゴンには牛肉を買って来てやった。マイは終始上機嫌たった。
ちなみにお風呂で自分の口に収納から水を発せさせてみたが、シャワーを口にあててうがいしてるような感じになるだけだった。マイは必死で飲もうとしたから溺れかけたようだ。