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 試し斬り


 闇の中から黒い影が現れる。


 筋骨隆々の剥き出しの上半身に、下は何の皮か解らないボロボロの腰巻きを纏っている。そして、その頭から上は人ならざるもの、猛る雄牛が僕を睥睨している。


 ミノタウロス。その中でも能力が突出した上位個体。ミノタウロス王だ。


 僕がこの迷宮で初めて屠った、始まりの思い出の魔物だ。その経験値、その手にしていたハンマーは僕を大いに助けてくれた。有史以来、人は牛という生き物にその命をもって助けられてきた。僕にとってその牛頭の魔獣も同様だ。


 ここは原始の迷宮。王国屈指の高難易度の迷宮で、公的には今までの最深到達階層は地下39層だったが、最近、『地獄の愚者フール・オン・ザ・ヘル』という冒険者パーティーがそれを地下49層まで伸ばした。もっともその冒険者パーティーは僕達が養殖したものだが。それでも中層の覇者ボストロルが大きな壁となって冒険者達に立ち塞がり地下40層に到達出来る冒険者パーティーはほぼいない。

 迷宮の魔物は一定時間でリポップするのだが、地下40層までの魔物はあらかた刈り尽くされている。最近の猛暑で迷宮を避暑地代わりに使うという少し変わった冒険者が増えたからだ。浅層は駆け出しが、中層はベテランの冒険者が居座り、日雇い労働みたいに魔物を狩っているそうだ。さながらこの迷宮は一つの町になりかけている。なんか昔住んでた家に行ったら他人が住んでいたような妙な感じだ。もっともこの迷宮は僕の家ではないが、辛い事や楽しい事を過ごした第二の実家感があるのは否めない。

 ついついミノタウロス王を見て感傷にひたってしまう。迷宮が実家なら、差し詰めミノタウロス王はお父さんか? という事は僕は反抗期のどら息子だな。


『父よ、息子は今から貴方を超えて行きます』


 口に出したら変な人なので心の中でミノタウロス王に話かける。


『どうでもいいが、妄想しすぎじゃねーの』


 剣が僕の心に語りかけてくる。


『いや、妄想は大事だ。妄想が世界を進歩させてきたんだよ』


『進歩はいいから、早く牛を斬れよ、俺の切れ味を試しに来たんだろ』

 

 剣が投げやりな感じでごちる。所詮剣、人間の心の機微は難しいようだな。


 僕はこの剣の試し斬りに来た。試し斬りをしようと思った時に頭に浮かんだのが、ミノタウロスだった。僕の永遠のライバルだ。決して、アンが食べてたビーフステーキに触発された訳ではない。


 しかもこの剣、柄を握ると話かけてくる。最初は慇懃だったのだが、親しくなると、くだけたというかウザい。なんでもかんでもすぐに突っ込んでくるし聞いてくる。子供みたいだ。


『誰が子供だ』


 僕は流して、僕を待っているミノタウロス王の方に駆け出す。右手は剣、左手はハンマーだ。リナとの戦闘以来、剣の初陣だ。まずは強い者で試し斬りしたいと思って温存した。ハンマーを手にしているのはその成長補正の恩恵を少しでも受けようというセコい考えだ。


「おおりゃー!」


 軽く剣を横凪ぎ一閃。


 ゴトリ。


 真っ二つになったミノタウロス王の上半身が地に落ちる。


『これが勇者の力だ!』


 剣がドヤる。ドヤってもいい切れ味だ。まるで鎌で草を刈るくらいの感触だった。


 地面に金色のポーションが落ちている。久しぶりのスキルポーションだ。


『そうそう、言い忘れてたが、俺を使うと運が良くなるぜ、なんてったって勇者だからな』


「おい、早く言いやがれ、それならもっとお前を使ってやったのに!」


 しばらく僕は剣と不毛な言い争いを続けた。そしてポーションを手にお家に帰る。土産も出来たしマイも喜んでくれるだろう。アンがすねないようになんか肉も買って帰ろう。


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最強の荷物持ちの追放からはじまるハーレムライフ ~
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