表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

449/2104

 勇者か魔王か(終)


 僕達は一進一退の攻防を繰り広げる。いつの間にか辺りは静寂につつまれていて、ただ、僕達の武器を打ちすえる音が鳴り響く。

 この広い世界に僕達がたった2人しかいないような錯覚に囚われる。

 僕の動きが読まれ、僕もリナの動きを読む。ここまで解り合えると楽しくもなってくる。

 けど、これは練習試合ではなく、お互いの全てを賭けた戦いだ。

 僕達が戦っているのは僕の領域の中。この中では全てのものが僕の魔法の収納に出し入れ自由だ。

 1回大きく競り合い、僕は間合いを取る。追撃の瞬間にリナの大剣を収納にしまい、ハンマーを突き付けて勝利宣言する予定だ。

 僕は大剣を収納にしまおうとするが、何も起きない。一瞬大剣の色が黒くなったような気がしだ。慌ててリナの追撃を避ける。


「何が起こったか解らないみたいだな。魔王の力だ。私より強い力で干渉しないと武器は奪えないぞ」


 どういう理屈かは解らないが、リナには収納による強奪は効かないみたいだ。けど問題無い。それなら力押しで倒すまでだ。僕はハンマーを手に駆け出す。


「ハァアアアアーッ!」


 リナが掛け声を上げ腰を少し落とす。リナから放たれた何かに僕は吹っ飛ばされる。受け身をとって立ち上がると、そこには全身を歪んだ禍禍しい真っ黒な鎧に覆われたリナがいた。


「魔王の力を物質化した鎧だ」


 リナにしてはまともな事を言っているが、まだ技や鎧の名前は決まって無いみたいだな。

 こけおどしかと思ったが、違う。リナの纏う気配が今までとは全く違う。


 けど、やるのみだ。


 僕はハンマーを振り上げ全力で振り下ろす。数百回いや、数千回いや、数万回繰り返してきた動き。全ての無駄をそぎ落とし、ただ力を込める事のみに特化した僕の必殺の一撃。


 ガキーーーン!


 僕のハンマーは大剣の腹で受け止められる。ここまでは最初と一緒だ。けど、ここからは違う。僕はリナの踏ん張る大地を収納にしまい押し切ろうとする。けど、また僕のスキルは発動しない。リナの足下に一瞬黒い霧のようなものが……

 一瞬気を逸らしたのがいけなかった。リナが不敵に笑う。

 刹那、僕は吹っ飛ばされていた。全身を巨大な何かで殴られたみたいだ。手からハンマーも離れている。


 僕はなんとか立ち上がろうとするが、体が動かない。何をされたんだ?


 リナが剣を片手に歩いてくる。


 リナは大剣を振り上げる。


 収納からエリクサーを出そうとするが、そこには黒い霧が出ただけだ。そうか、リナから一定の距離ではスキルが使えないのか……


「ザップ……弱いな……」


 北の魔王リナ・アシュガルドは振り上げていた大剣を降ろし僕に背を向けた。


 強くなりたい。


 僕は自惚れていた。最強の一角になれたと思っていた。けど、それは妄想でしかなかった。


 リナは強い。間違いない。リナは魔王の力を使いこなしているんだ。彼女の強さを讃える数多の者から、彼女を畏怖する幾多かの者から力を得ているんだ……


 勝てる訳がない。僕1人では……


 回りを見渡す。マイが、アンが、ラパンがシャリーがそして大勢の者が僕を見ている。みんな信じてくれている。まだだ、まだ負けてはいない。


 どうすれば、どうすればみんなの思いを力に出来るのか?


 勇者?


 勇者アレフ……


 そうだ、アレフの剣!


 僕は勇者アレフの剣を収納から出す。一瞬黒い霧が出るがそれを押しのけて剣が出現する。あたたかい。力が溢れてくる。僕は勇者の資格を得ていたんだ。


「リナ、まだだ、構えろ!」


「ザップ、それでこそザップだ。行くぞ!」


 リナは大剣を振り上げ僕に迫る。僕を信じてくれる者たちよ、僕に力を!


 ゴゴッ!


 リナの振り下ろした大剣をなんとか剣の腹で受け止める。剣から力が流れ込んで来るのを感じる。


「ウオオオオオオーッ!」


 僕はリナを弾き返す。


「どりゃーーっ!」


 僕はそこから突進して横に薙ぐ。


 リナは大剣の腹で受け止めるが、止まらない。僕はそのままリナの横を走り抜ける。


「ゴッドスレイヤーが……」 


 リナの大剣は両断されゴトリと地面に落ちる。のみならず、リナが纏っていた黒い鎧も地に落ちて砕けて消える。


 僕が切ったのはリナの剣と鎧。リナの体はすり抜けた。何故そんな事が出来たかと言うと、剣が収納の力を取り込んだみたいで、何を切るか心に問いかけてきたのだ。

 さすが勇者の剣、ハイスペックだ。


「さすがだな、ザップ、今日の所は引き分けだな」


 まぁ、妥当な所だ。僕の勝ちのような気もするが、ごねたら再戦を求められるかもしれない。もう今日は勘弁して欲しい。


「そうだな、ありがとう」


 回りで見てる者には何が起こったのか解らないかもしれないが、リナのお陰で、リナに追い込まれたお陰でまた強くなれた。


 リナが右手を差し出す。魔王と勇者は固く握手をした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 下から集英社のオフィシャルサイトに移動できます。よろしくお願いします。
最強の荷物持ちの追放からはじまるハーレムライフ ~
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ