表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

447/2102

 勇者か魔王か(前)


「ザップ……弱いな……」


 北の魔王リナ・アシュガルドは、振り上げていた大剣を降ろし、僕に背を向けた。


 強くなりたい。


 僕は自惚れていた。最強の一角になれたのではと思っていた。けど、それは妄想でしかなかった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ザップ、久しぶりだな。では戦うぞ」


『みみずくの横ばい亭』で、少し早めの昼食をいただいていた時に北の魔王リナが現れた。

 今日のここの日替わりランチはチキングリルステーキ。カリカリに焼けた鶏の皮がとても美味い。僕は、鶏の皮のブヨブヨはあまり好きではなく、こんな感じでカリッと香ばしく焼けているのが好物だ。

 僕、マイ、ドラゴンの化身アンと、魔道都市の見た目幼女の導師ジブルで食卓を囲んでいる。

 メイド姿のラパン、シャリー、新人のピオンがきりきりと働いている。僕のおきにの猫耳のケイは休みみたいだな。新人が増えてやっとブラックな職場ではなくなったようだ。



「お前、その格好はなんとかならんのか?ここはビーチじゃないんだぞ」


 リナの格好は相変わらずの金色のビキニアーマー。なんか目を向けただけで犯罪者になった気分になるので、正直目のやり場に困る。今は夏真っ盛りで往来の人々も露出が多い嬉しい季節だけど、さすがにこいつ程肌を晒している者は居ない。


「ザップ、この頭おかしそうな奴誰だ? 知り合いなら入り口で看板持って立たせよう。つらもいいから、風俗と間違えて入ってくる客増えるよ」


 新人メイドのピオンがリナに絡む。


「ピオン、客じゃなくてお客様って言えってマリアさんに言われてるでしょ!」


 走って来たラパンにピオンは首根っこ引っ掴まれて裏に引きずられて行く。成長したものだ。まさかラパンが言葉使いで人を教育するようになるなんて。


「なんだ、あの横着な娘は、ザップまためかけを増やしたのか? それじゃ戦うぞ」

 さらりとめかけとか言ってるが、こいつ意味わかってるのか?


「おいおい、戦いの前にお前の格好の話が終わってないぞ。マイ、なんかガツンと言ってやれ」


「ザップ、面倒くさいからってあたしに振らないで。戦えばいいじゃない。戦えば」


 くうっ、マイに裏切られた。マイはチキングリルにご執心のようだ。うまく話逸らしてうやむやにしようと思ってたんだが……


「その通りだ。面倒くさい。そもそも何で戦わなきゃならんのだ? そもそも俺は女の子と戦う趣味は無い」


「ご主人様、説得力無いですよ、私にはいつも容赦ないですよね。ねぇねぇ、私も女の子。女の子ですよー」


 ドラゴンの化身アンが余計な事を言う。


「何言ってやがる。事故だ事故」


「嫌ですよね、男って。私の大事な所を切り落とそうとしたり」


「尻尾の事か?」


「熱くて固いものをぶつけようとしたり」


「メテオ・ストライクの事か?」


 いかんな、最近暇なときアンは魔法使いのルルから借りた本を顔を赤くしながら読んでいる。間違いなくそれから良くない事を学んでるな……


「私は魔王として色んな世界を旅して更に力を増してきた。様々な強敵を打ち倒すたびにお前の顔が頭に浮かぶんだ。私はもしかしてザップより弱いのではないかと」


 いきなりリナが語りはじめる。こいつ相変わらず人の話聞いてないな。けど、ピオンやアンのちょびエロ系の話にはノーリアクションだったな。もしかしてリナは全く理解していないのでは?

 リナの頭の中は見事なまでに戦闘一色だ。もしかしたら今までの人生で、そういう事を全く学んで来ていないのでは?

 

『武』という文字は、2つのほこを止めると書くと言う。真の『武』とは戦う事ではなく、いかに争わずに勝つかだ。



「おい、話しは変わるが、リナ、赤ちゃんってどうやったら出来るか知ってるか?」



 僕は戦いを回避するために一か八かの賭けに出た。かなり言葉を選んだから、マイからの制裁は回避出来るはずだ。


 僕はチラッとマイを見る。僕を睨んではいるが、ギリギリセーフだったみたいだ。マイの前では下品は御法度だ。命に関わる。

 

 僕はリナに目を向ける。


「ん、コウノトリが運んで来るのではないのか?」


 高度なボケかと思ったが、リナのクリクリとした目がそうでは無い事を物語っている。


「おい、アン、別室で魔王様に色々教えてやれ、最近の勉強の成果を見せてやれ!」


「ちょっ、ザップ!」


 マイが椅子から立ち上がる。


「マイ、リナは魔王で国のトップだ。戦いだけじゃなく世界の様々な事を知らないとな。このままじゃ、馬鹿に見えない服とか買わされて裸で町を練り歩きかねんぞ」


「そ、そうね……」


「それでは、リナさんザップハウスに行きましょうか。教材を使って色々おしえて差し上げます」


「ああ、よろしく頼む」


 リナはアンに手を引かれて消えて行った。


「ザップ、上手くあしらったわね」


 導師ジブルはまだもきゅもきゅしてる。半分以上チキンは残っている。食べるの遅いな、牛みたいに反芻してるのか?


 斯くして平和は魔王の手から守られた。僕らは勝利のコーヒーを口にすることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ