激しい名前のカクテル
「なんか凄い名前だな…」
『たわわに実った果実たっぷりセックス・オン・ザ・ビーチ』
メニューの中の幾つかのカクテルの中の1つの名前が目に留まる。
「そうね、凄い名前ね…」
マイは僕が指差した名前を見て、顔を赤らめてメニューから目を逸らす。やべ、可愛いな。
僕達はマイにせがまれて、臨海都市シートルの街に隣接しているビーチに来ている。
抜けるような青い空の下、潮の香りに包まれている。
僕とマイは海の家って感じの藁葺き屋根のバーカフェのテラス席に腰掛けていて、導師ジブルとドラゴンの化身のアンの2人ははしゃいで海に突っ込んで行った。奴らは身なりも子供っぽいが、頭の中も同様だ。微笑ましい。
おかげでなんかマイとデートみたいになっている。
マイは今日はピンクのビキニだ。とっても綺麗なんだけど、なんと言うかここに来るまでもマイ達はジロジロ眺められ、僕にはなんでコイツが一緒なんだ的な目が向けられているような気がしたのは気のせいでは無いだろう。
なんか、何故かマイがジロジロ見られるのはいい気持ちでは無い。少し誇らしい気もするが、ジロジロ男に見られるとプチ殺意が湧いてしまう。複雑な気分だ。
ここはサンタマリー港と呼ばれていて、白い砂浜のビーチから右と左に岬が遠くに伸びている。
『サンタマリーを見るまで死ぬな』ここ東方諸国連合にはそういう言葉が広がっているほど素晴らしい景色だ。ジブルが言っていたが、壁に掛けてある絵で海の絵を見たら、そのほとんどはサンタマリー港の絵であるらしい。
けど、人が多い。とてつもなく人が多い。ビーチは歩くのに難儀するほどのビーチチェアと敷物で埋め尽くされ、老若男女雑多な種族の水着の者で芋洗い状態だ。僕達のいるバーカフェも人で埋め尽くされていて、その日よけの付いたテーブルには高い足の大きなグラスに青、赤、黄色、緑などのカラフルな飲み物が入ったものや、香ばしい香りのする海の幸をふんだんに使った料理が並んでいる。
ちょうど席が空いたので水着姿のウェイターさんに声をかけて座り、そして、件のカクテルに目がいった次第だ。
『たわわに実った果実たっぷりセックス・オン・ザ・ビーチ』
もう一度名前を見てみる。なんか表現がエロい。たわわに実った果実という表現が特に。僕は何気なくマイの胸を見てしまう。サングラスのおかげでばれてないはずだ。
「マイ、これ頼んでくれよ、お店忙しそうだからそっから頼みなよ」
僕は例のカクテルを指差してマイをじっと見る。マイは一瞬にしてボワッと赤くなる。ここまで予想通りのリアクションされると面白いな。けど、程々にしとかないと海に叩き込まれかねない。
「えー、あたし恥ずかしいな。ザップ、自分で頼んでよ」
マイが赤いまま明後日の方を見ている。しょうがないな。けど、ここで何の躊躇いもなく大声で頼めるような女の子は個人的に好みではない。この恥じらい感とこの空気、海って最高だなぁ……
「ご注文お決まりですか?」
水着の店員さん、しかも可愛い女の子が僕に声をかけてくる。しかもメニューはマイが持っているので発声するしか無い…
「すみません、セ、セッ…」
いかん、瞬時にして口の中がカラカラになった気がする。変な汗が噴き出してくる。
むむっ、どうした、ザップ・グッドフェロー、お前は最強の荷物持ち、数多の魔物を倒した者だろ。たかがカクテルを頼むだけだ。何緊張してやがる。少しエッチな名前なだけだろう!
無理だ。僕には無理だ。初対面の可愛い女の子にセクハラ発言するのは高難易度すぎる。ドラゴンだ、しかも古竜だ。まずはスライムからでお願いします。
「ん、これですね、セックス・オン・ザ・ビッチを4つお願いします」
マイの後ろにやって来たアンが事もなげに注文する。間違えてるのは意図的なのかどうかは本人しか分からない。
真っ赤でモジモジしてる僕達の下に現れた救世主は椅子に座り口を開く。
「ヘタレですね、思春期ですかぁ?」
僕達はどらドラゴンに何も言い返せなかった。