第四十四話 荷物持ち土下座する
「なにあいつ、感じ悪すぎるわね、喧嘩売ってるのかしら、思い知らせてやるわ!」
マイが憤っている。
「いや、いいよ、実際あいつの言うとおりだし」
『ゴールデンウィンド』のパーティーに拾われるまで、僕は生きていくために何でも運んだ。
信頼が無い運び屋冒険者に任される仕事はひどいものばかりだった。ゴミや動物の死骸などの値打ちのないものや、死体や臭い物などの人が運びたがらないものの搬送ばかりで、その時についたあだ名はゴミ箱だった。
けど、僕はその事を別に気にはしてない。誰かがやらないといけない仕事だったし、依頼主には感謝された。
それに何よりの収穫は収納を使い続けた事で、みるみる運べる量が増えてもいった。
僕に絡んできた奴の名はザナドゥ、『ダンスマカブル』という冒険者パーティーのリーダーだ。大きな剣を使い、その戦い方と見た目から人気は高い。
けど人としてはクズで、強いものには卑屈で弱いものは執拗にいたぶる。
いつも僕を見るたび絡んで来て、殴る蹴るの狼藉を働きつづけた。
あとのメンバーは、タンクの盾使い、魔法使い、神官で、魔法使いと神官は綺麗な女性だ。けど、三人ともザナドゥ同様にクズで僕の天敵だった。
「くんくん!」
アイが僕の近くに来て、においを嗅いでいる。
「確かにご主人様は前は臭かったですが、今は臭くないですよ。おい! そこのお前失礼な事言うなしっかり嗅いでみろ、むしろお前の方が臭いぞ、酒臭い!」
「なんだお前は? よく見るといい女じゃねーか」
盾使いが立ち上がりアイの前に立つ。頭一つ分以上身長差がある。
「ザップ、ゴミ袋からヒモにクラスチェンジしたの? お嬢ちゃんたちこんなクズ野郎引き連れてたら同類に見られるわよ! ゴミは焼却よ!」
魔法使いが軽く小石くらいの火のつぶてを僕にぶつける。こいつは隙あらば僕を燃やそうとする。
「ザップ! あんたたちやり過ぎよ!」
マイが僕の前に立ち武器に手をかける。
「おうおう、ねーちゃんやっちまったな!武器に手をかけるってことはな、死んでも文句言えねーって事だ! 特上物二人か、今晩は楽しめそうだ! 親父、見てたな、先に手を出したのはあっちだ!」
ザナドゥは声を荒げる。店主はそれを見て怯えて頷く。先に手を出して来たのはあっちだと思うが、この手の奴らには理屈は通用しない。
ザナドゥはゆらりと立ち上がるとマイに右手を上げる。僕は飛び出しその間に割り込む。
ゴツッ!
僕の顔に拳が当たる。
「いてーなー! くそ、殴り方が悪かった、手痛めちまった!」
ザナドゥは手を押さえて後ずさる。
僕はその場にうずくまり、手をついて頭を下げる。
「すまない、その二人は関係ない勘弁してくれ……」
「始めからそうすれば良かったんだよ、クズが!」
ザナドゥは僕を蹴り始める。
「ザップ!」
「ご主人様!」
「来るな! 手をだすな!」
僕は大声で二人を制する。
『ダンスマカブル』のメンバー三人も参加して、蹴る、踏む、火をつけるを繰り返す。執拗なまでにそれは繰り返され、疲れたのかやっと終わる。
「ハァ、ハァ、ゴミ虫、これからはもっとゴミ虫らしくふるまえよ! ペッ!」
ザナドゥは僕の頭につばを吐きかけると店を出て行った。残りの三人もそれに続いた。
「ザップ! 大丈夫?」
マイは近づいてくると、自分の服でザナドゥのつばを拭ってくれた。
「ああ、問題ない」
「ご主人様、なんで?」
「あいつらと揉めたとしたら、一方的に俺たちが悪くなる。あっちは人気ある冒険者、俺は猿人間だからな」
「……ごめん……ザップ……」
「気にするな、親父、騒がせて悪かった。座ってもいいか?」
店主が頷くのを確認してテーブルについた。